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「人」コラムールクセンブルクの横顔(12)

「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔 
第12回: キャサリン・ハヤルさん (Ms. Catherine Heyart) ― 後編

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
前回に引き続きご登場いただくのは、日本のアパレル・メーカーでデザイナーとし働いているキャサリン・ハヤルさん。第5回、6回の当コラムでお話を伺った慶応大学の大学院に在学中のジュリー・ハヤルさんの妹さんです。

事務局(以下、Q):さて、留学先の日本の学校(エスモード)を卒業して、日本のアパレル・メーカーに就職したキャサリンさんですが、職探しには苦労しなかった?
キャサリン(以下、C):それはなかったですね。割とすんなり決まりました。日本語で履歴書を書いて、日本語で面接して。日本は学生にとって職探しをする環境が整っているな、と思います。
Q:そうですか?
C:はい。ヨーロッパのアパレル業界は大手か個人でやっているかに二分されていて、いわゆる「中堅どころ」はとても少ないので、職務経験のないフレッシュマンが入るのはかなり厳しいです。アパレル業界でデザイナーとして働くには日本は良いと思いました。
Q:それで、まずは社員数500人位の会社に入った。ザ・ジャパニーズ・カンパニーの(笑)
C: はい(笑)。
Q:カルチャー・ショックのオンパレードだったのでは?
C:まあ、少しは(笑)。
Q:例えば?
C:そうですね、暗黙のルールがいっぱいあって。例えば時間のこと。
Q:時間ですか?
C:朝礼の30分前には出社しなければならない。朝礼は始業時間に始まるのですけど、その30分前。でも、30分ではまとまった仕事には中途半端な時間だし、何故そういうルールなのか、理解に苦しみました。
Q:無駄な時間と感じた?
C:正直に言うとそうです。合理的でないな、と。
Q:その他には?
C:販売のお仕事で接客もしたのですが、日本のお客様の扱いはとても難しかったですね。ヨーロッパと違い、日本の方はイエス、ノーをはっきり言わないでしょう?ヨーロッパだと店員さんに「ほっておいて」とはっきり言うけれど。日本のお客様にどの程度積極的に対応すればば良いのか、そっとしておく方がいいのか、迷いました。今は前よりはニュアンスが分かるようになりましたけれど。仕事に限らず、日本の文化は奥が深くてはっきり言いませんよね。言っている事と本音が違うこともあるでしょう?本当はどうなのか、判断するのが非常に難しくて。もっとはっきり言って欲しいな、と思うことがあります。
Q:なるほど。そして今年、別のメーカーさんに転職したのですね。
C:はい、そうです。会社の環境とかカルチャーが自分に向いているな、と思い移りました。小さなメーカーで、色々と任せてくれるし、決定権もあって、とっても楽しい。すごく勉強にもなります。
Q:時間はどうですか?
C:始業は10時からで、普段は大体午後7時か8時には終わります。展示会などのイベントの直前は別ですけれど。小さな会社だからなのか、企業風土なのか、ちょっとわかりませんが、時間については業務に支障が出ない限り、とてもフレキシブルですね。通勤もドア・ツー・ドアで30分以内ですし。電車に長時間乗るのは苦手なので、それも助かっています。お天気の良い日は自転車通勤をしたりもします。自転車でも30分。
Q:ああ、職住接近はいいですね。職探しに苦労をしなかったキャサリンさん、家探しについてはどうでした?苦労されたというお話を聞くことが多いのですが。
C:家探しも大丈夫でした。普通の不動産屋さんで契約しました。その前に電話で外国人がOKかどうか、確認しましたけれど。
Q:全く問題なく?
C:外国人が多く住んでいる地域だから、慣れているのではないでしょうか?仕事をしている日本人に保証人になってもらう事に加えて保証会社にも登録しなければなりませんでしたが。通勤にも便利だし、暮らしやすい場所で気に入っています。
Q:それは素敵ですね。休日はどう過ごしているのですか?ご近所散策?
C:お休みの日は友達と会って食事をしたり、ちょっと山登り、といっても高尾山ですけど、をしたり。公園にもよく行きます。新宿御苑とか、砧公園や代々木公園。自然に触れると、ほっとします。
Q:なるほど。お姉さんのジュリーさんとはお会いになりますか?
C:はい、しょっちゅう(笑)。私たち、とても仲が良いのです。週に1、2回は姉に会っています。
Q:姉妹そろって日本在住で、日本通。私たちにとって非常に心強いルクセンブルクの友人ですね。キャサリンさんにとって日本とルクセンブルクの相違点は何でしょう?
C:日本とルクセンブルクは、両国とも全体的に落ち着いていて、静か。プライベートも大切にする文化が似ていると思います。欧米の国は概して社交的であることを強いる傾向がある気がするのです。自分ひとりの時間を持ちたいと思うのはNGで「どうしちゃったの?」と聞かれてしまう。でも、日本もルクセンブルクも一人きりの時間をリスペクトする文化があると思います。反対に、日本のモノ・カルチャーに対しルクセンブルクはマルチ・カルチャー、マルチ・リンガル。他の国の影響を多く受けていますね。国としてのサイズも小さいし。でもその分落ち着いたイメージもあります。ルクセンブルクはマルチ・リンガルでマルチ・カルチャー、そして村的な感覚のある国だと私は思っています。
Q:ああ、村的な感覚、という表現は言いえて妙ですね。村的だけれど閉鎖的ではない。ルクセンブルクの魅力のひとつですね。キャサリンさんは日本在住5年目ですが今後の予定とか希望とかは具体的にありますか?
C:先のことはまだ具体的には考えていません。今は日本でもっと経験を積みたいですね。いつかルクセンブルクに帰るかもしれないし、他の国に行くかもしれないけれど、今は日本の深い文化について、もっと勉強したいなと思います。出張で日本の地方都市に行くことも増えているのですが、個人的な旅行でも色々な所を訪ねて、様々なことを見聞きしていきたいです。
Q:なるほど。最後にLIEFの読者へメッセージお願いします。
C:私はルクセンブルク人と日本人はすごく似ている所があると感じていて、お互いにとても分かり合えると思っています。ですから、日本の皆さんに是非ルクセンブルクに行って直に体験して頂きたいです。私が日本で体験している素晴らしい出来事が、皆さんもルクセンブルクで体験されることができるのでは、と思います。
Q:まさしく百聞は一見に如かず、ですよね。今日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございました。
C:こちらこそ、ありがとうございました。

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キャサリンさんと話していると「普通に」という言葉が良く出てきました。けれど良く聞いてみると、その前にしっかりリサーチをして足場を固めてから事に臨んでいることが良く分かりました。行動力と慎重さ、このバランスはルクセンブルク人に特有のものなのか、キャサリンさん個人の資質なのか、とても興味がわきました。穏やかで非常にオーガナイズされている彼女、職場で大活躍していることが容易に見て取れます。日本の文化をさらに身に着けて、日本のよき友人でいてほしいと心から思いました。  (文責:事務局)