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ルクセンブルクの伝統 5月

5月(ルクセンブルク語で“Päischtmount”)

ルクセンブルクには長く受け継がれてきた春の習慣があります。5月1日がメーデーと(1890年以降)とされるよりはるか昔、ルクセンブルクの人々は5月に特化した異教の生贄の祭りを行っており、それが後にキリスト教の祭事に組み込まれました。人々は魔除けのため、家や馬小屋に聖なるシュロの枝を置いたり、室内に聖水を撒いたり、ドアに十字を描いたりなどしていました。
現在では、5月1日に青々とした葉のついた枝を集めに森へ出かけ、“Meekranz”(5月のリース)を編むルクセンブルク人がたくさんいます。編まれたリースは、穏やかな季節の到来を祝い家々の玄関ドアに掛けられます。5月を代表する、よく知られた美味しい飲み物に“Meedrank”(5月ワイン)があります。この種のドリンクは、白ワインにブランデー、砂糖、オレンジ、甘い香りのカワラマツバを混ぜ合わせて作ります。

イースター後3週目の日曜日から2週間の間(4月または5月)、ルクセンブルク全国からだけでなく、近隣のドイツやベルギー、フランスからも同様に教会区の信者たちが、ルクセンブルク市の「ノートルダム」大聖堂(聖母マリアの大聖堂)へ巡礼に向かいます。これは”Muttergottesoktav”(オクターブ)と呼ばれる聖母を称えるお祝いで、ルクセンブルクの1年のうちで非常に重要な宗教行事です。
この重要な宗教行事は、聖母マリアを崇めるため17世紀から毎年行われており、巡礼者たちは菩提樹から彫り出された霊験あらたかなMaria Mater Jesu像を参拝します。この像はイエズス会が現在のノートルダム大聖堂へ移したものです。聖母マリアは、1666年に公式にルクセンブルク市の守護聖人に選ばれ、後の1678年には大公国全体の守護聖人となり、猛威を振るったペストの流行や飢饉、悲惨な戦争から当時のルクセンブルクの人々を守ったのです。そのことによって、聖母マリアがルクセンブルクの聖母マリア、Consolatrix Afflictorum(病める人々の聖霊)、Patrona Civitatis et Patriae Luxemburgensis(全ルクセンブルクの守護聖人)の称号を受けたことはそれほど驚くことではありません。
ルクセンブルク市の郊外に到着した巡礼者たちは行列を成し、祈りを捧げながら大聖堂へと共に歩きます。その行列の後には、教会区の信者たちは「ノートルダム」でミサのお祝いもします。こういった長時間の骨の折れる行列(夜のうちに家を出て大聖堂を目指し何時間も歩く巡礼者もいます)を終えた信者たちは伝統的に、毎年“Place Guillaume II”、またはルクセンブルク人は“Knuedler”と呼ぶ場所に設置される”Oktav-Mäertchen”(オクターブ・フェアー)で、美味しいビールと“Gromperekichelcher”(ポテトパンケーキ。すりおろしたジャガイモと小麦粉、卵が材料です。)を楽しみます。“Mäertchen”は、市場のような小さな催事場で、オクターブと深い関わりがあります。昔は、食べ物や飲み物の他は宗教的な装飾品しか買えませんでしたが、現在はそれ以外のお土産品(料理用ハーブ、手作りの装飾など)も揃っており、回転木馬に乗って遊ぶこともできます。

昇天日には毎年2万人近くの信者(主にポルトガル移民)が、ルクセンブルク北部のWiltzという町にあるファティマの聖母像への巡礼に赴き、1917年にポルトガルのファティマ村の3人の子供たちの前に現れた聖母マリアを称えます。バルジの戦い(1944~45年)の間、家の地下室に身を潜めていたヴィルツ(Wiltz)の教区民のグループが、攻撃を生き延びたことを感謝して、1951年に聖母マリア像を建立したという歴史的事実を思い起こさせますが、多くの信者たちは1968年からファティマの聖母を信仰し始めたばかりです。人口の15%以上を占めるポルトガル移民によって、ファティマの聖母への行列がルクセンブルクの宗教行事の中で次第に重要な地位を獲得してきたと言えるでしょう。実際、ファティマの聖母のお祝いは、ルクセンブルクでの大きな宗教行事の1つです。ファティマへの巡礼は、ちょうど“Muttergottesoktav”のように家族や友人たちと会い伝統的な食事を楽しむ家族の行事の1つになってきています。たとえ巡礼者のほとんどがポルトガル移民のコミュニティに属していても、このお祝いは異文化間のお祭りへと急速に進化しています。

大公国北部で行われる、もう1つの伝統的なお祝い(キリスト教でなく他宗教に由来)が“Geenzefest”(ゲニスタ・フェスティバル)です。
春の開花時期に黄色い花をつける低木は、ルクセンブルクではよく目にする植物で、全国の景色で見ることができますが、北部で最もよく目にする植物は“Éislek“(エスリング)といわれるものです。1949年以来、聖霊降臨節の月曜日にWiltzが毎年主催するパレードではその黄色い花を飾り付けた山車が登場します。
音楽隊と民族衣装のグループがカラフルで魅力的なパレードを先導し、6人の貴婦人を従えたゲニスタの女王が花で飾られた山車でトリを務めます。このパレード以外にも、“Geenzefest”には展示会やコンサート、ダンス、フリーマーケットなど豊富なアクティビティが揃っているため、家族旅行にぴったりの催しとなり、毎年1万人もの観光客を集めています。

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