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「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔 第23回:今野有子さん (Ms. Yuko Konno) ― 前編

「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔 
第23回:今野有子さん (Ms. Yuko Konno) ― 前編

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回は、ルクセンブルクのワインを取り扱っているワイン輸入業者、コンサルタントの今野有子さんにご登場いただきます。今野さんはワインセミナーの講師としても大活躍されており、ルクセンブルクのワインの魅力を多方面の方々に伝えてくださっています。

事務局(以下、Q):こんにちは、お久しぶりです。ルクセンブルクカフェ(注:2017年11月のルクセンブルク大公殿下の国賓としての来日を記念して期間限定で日本橋・浜町にオープンしたカフェ)でのワインセミナー以来でしょうか?
今野(以下、K):こんにちは。ご無沙汰しております。ゆっくりお話できる機会を頂き、嬉しいです。今日はよろしくお願いします。
Q:まずは自己紹介をお願いします。
K :はい。株式会社アルムンドでワインの輸入をしております今野有子です。「ここだけワイン」というブランドを立ち上げまして、私自身がワイナリーを直接回ってチョイスした、こだわりのワインを直輸入・直販しています。日本では弊社しか扱っていない、ここでしか手に入らないワインなので「ここだけワイン」です。
Q:その中にルクセンブルクのワインがあるのですね。
K:はい。現在、スペイン、フランス、スイス、イタリア、ルクセンブルクのワインを輸入しておりまして、ルクセンブルクからはアンリ・ルパート(Domain Henri Ruppert)とベルナ(Berna)の白ワインを。
Q:ルクセンブルクのワインは、ほとんどが自国で消費されていて、日本はもとよりヨーロッパでも非常に希少ですけれど、ルクセンブルクワインに出会ったそもそものきっかけを教えていただけますか?
K:2010年にスペインワインのみで輸入販売をスタートしました。当時はスペインのワインが日本ではまだ今ほど知られていなかったこと、非常に良いワインに出会ったことで、「(まだ皆が)知らない良いものを紹介したい」と。その後、フランス、ドイツ、オーストリア、スイスとお付き合いするワイナリーが増えまして、地図で見ると北上ですね(笑)。フランス最北のアルザスのワインに注力していた時にルクセンブルクワインに出会いました。
Q:もう少し教えていただけますか?
K:当時、アルザスワインに魅了され、その魅力を回りの方々に熱く語っておりましたところ、ある方に「アルザスのワインがそんなに好きなら、絶対ルクセンブルクのワインが気に入ると思うよ」と教えていただきまして、すぐ調べてみました。おっしゃる通り、ルクセンブルクのワインは手軽に入手できる環境ではありませんでしたが、ワインの味わいは土地の個性と気候である程度想像がつきますので、これは間違いのないエリアだと期待が膨らみました。それで本格的な調査を開始したのです。ほんの少しだけですが、日本で試飲もして、それから現地に向かいました。生産者の方々と直にお目にかかって、ルクセンブルクのワインをもっと深く知りたかったので。
Q:わ、すごい行動力!2010年からスタートされた、とおっしゃいましたが、その前は?
K:普通の会社員です。
Q:あ、そうなのですか?
K:はい、まずは製薬会社、それから人材紹介会社で働いていました。2007年に退職してニュージーランドに留学。そこで地場の美味しい白ワインに出会いまして、帰国後ワインアドバイザーの資格を取得しました。その後、渡仏してボルドーでワインとフランス語を学び、それからスペインに1年半滞在。2009年の暮れから起業の準備をして2010年にアルムンドを立ち上げました。先ほども申し上げましたが、まだ皆に知られていない良い物を紹介したい、と。エリアの特性と作り手の特性を反映した素晴らしいワインがいっぱいありますし、起業のコンセプトとして、ワインは「人と人をつなぐ美味しい接着剤」と考えておりました。今もそう思っています。
Q:生産者と消費者の架け橋?
K:はい、微力ではありますが。
Q:ご謙遜を(笑)。ワインはテロワール(土地)と良く言われますが、作り手の個性もキーワードなのですね。
K:その通りです。ワインは農業と工業、ふたつの側面があると考えています。私は農業側のマッチメーカーでしょうか。
Q:農業と工業、ですか?
K:はい。エリアの特性や作り手の特性が色濃くでている比較的小さなワイナリーの製品がある一方で、大量生産で常に同じ風味を保っている、工業の色合いの強い製品もありますよね。もちろん、ワインに限らずビールも日本酒も、農業的な地ビール、地酒がある一方で、市場に大量に流通している工業的なブランドもあります。
Q:ルクセンブルクのワインは農業的ですか?
K:はい。モーゼル川の渓谷の本当に急な斜面で、畑は狭いので大量生産ができるエリアではありません。滋味に富んだ土壌で、ワインの複雑味が増します。ルクセンブルクのワインは、酸味がきれいで、非常にデリケート。和食にもとても会います。
Q:デリケート、ですか。
K:輸出を意識していないこともあるでしょうね。味がきれいということは、振動や熱劣化に弱い、という側面もあるので、輸送や保管には非常に気を使っています。作り手の方々にとってワインは自分の子供のようなものです。誇りをもって大切に育てた子供を嫁に出す気分で、よくわからない所に放り出したくない・・・。
Q:輸出を意識していなかった作り手が、日本への輸出をオーケーしたのは、この人なら、ちゃんと扱ってくれる、と。今野さんが信頼されているからこそ、ですね。
K:ありがとうございます。やはり、直接お会いして、畑を見せていただいたり、質問したりという事、人と人との繋がりが大きいと思います。ルクセンブルクだけに限ったことではありませんが。スペインのイビザもワイナリーは3つだけで、ほとんど島内で消費されるある意味「幻」のワインですが、その内のひとつのワイナリーの製品も取り扱っています。
Q:信頼を築く秘訣は直接会うことなのですか?
K:ビジネスライクに単にメールでやり取りするだけでは不十分なのは間違いないと思います。私が輸入業者であること、つまり、リスクを取っている、ということもあるでしょう。
Q:リスクを取る、ということは、しっかり責任を持つ、ということですね。しかし、大きなリスクですよね、仕入れ、関税、為替、そして輸送と保管のコスト・・・。
K:そうですね。支払いのたびにドキドキする・・・(笑)。ですが、良いものを良い状態で提供することにこだわりたいと思います。今後、扱いのロット数が増えれば輸入のコストを少し抑えることができるでしょうけれど、その前にルクセンブルクのワインのブランディングに着手したいですね。
Q:ブランディング・・・(以下、次号)
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抜群の行動力とワインに対する情熱、たおやかな容姿。今野さんのお話をうかがっていると輸出を意識していなかった、知る人ぞ知るワイナリーが今野さんに全幅の信頼を寄せるのは、さもありなん!と得心した次第です。次回はルクセンブルクワインのブランディングについて、そして今野さんが感じるルクセンブルク人の気質やお勧めのスポットなどについてお聞きしたいと思います。              (文責:事務局