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「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔(21) ハービー山口さん 後編

「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔 
第21回: ハービー山口さん (Mr. Herbie Yamaguchi) ― 後編

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回も、前回に引き続き写真家のハービー・山口さんのお話を伺っていきます。ハービーさんは1999年の写真集「Timeless in Luxemburg」(ルクセンブルク大使館発行。非売品)撮影をきっかけにルクセンブルクとの縁ができ、今年、19年ぶりにルクセンブルクを再訪されました。

事務局(以下、Q):19年ぶりのルクセンブルク、今回はご子息の大輝(ヒロキ)さんもご一緒だったのですね?いかがでしたか?
ハービー(以下、H):私にとっても、息子にとっても非常に有意義で、そして心が温かくなる日々でした。ジャン大公のご子息にも、総理大臣にもお目にかかり、また、私とルクセンブルクの縁を作ってくださったグラメーニヤ財務大臣、19年前は大使として日本にお住まいでしたが、と再会することもできました。
Q:滞在されたのは5月ですか?19年前は冬でしたけれど。
H :はい、5月23日から1週間。ヨーロッパを訪れるにはベストなシーズンですよね。冬とは違うルクセンブルクの顔を見ることができました。例えば、冬は静かだった通りが、5月は新緑と音楽に溢れ、とても賑やかだったり。19年前にフィルムに収めた建物を、当時と同じアングルで撮っても、建物自体が若葉で隠れニュアンスが本当に変わります。楽しいサプライズです。どんな場所でも、どんな事でも、一度だけの経験で分かったつもりになってはいけませんよね。
Q:同感です。今回の再訪で、特に変わったな、と思われたことは何ですか?
H:そうですね。新市街のキッシュベルグの発展には目をみはりました。前は背の高い国連のビルがあるだけだった場所は、沢山の海外企業のビルが立ち並び、さらに建築中のビルがずっと並んでいます。未来を感じましたね。旧市街と新市街を繋ぐ新しいインフラとして、路面電車の建設が急ピッチで進められていました。旧市街は前回の訪問時と変わらぬ印象で、古いものを大切に残している文化も大いに感じました。
Q:あ、駅にも行かれたのですか?
H:はい、中央駅からTGVでパリまで行く時に利用しました。駅の構造はかなり機能的に変化していました。今回もあちこち行きましたよ。パスポートなしでEU内を自由に行き来できることを定めた協定が調印された町として有名なシェンゲンまで足を延ばしたりもしました。今回は色々な方がコーディネーターでついてくれて、それも楽しかった。
Q:そして、色々な方にもお会いされた。
H:はい、その通りです。
Q:アンリ大公との会見について、お聞かせいただけませんか?
H:もちろんです。まず、宮殿に伺いまして、控えの間に通されました。執事の方が2階の大公のお部屋に案内してくれる際に、息子を控えの間に残していこうとしたら「息子さんもどうぞ」と言ってくれて。これがまず、最初のサプライズ。そして、はじめてお目にかかったアンリ大公が、本当に素晴らしい方で。3人になった時、大公が自ら僕と息子にお水をサーブしてくださったのです。
Q:まあ。それは凄い。
H:ホスピタリティをさりげなく示してくださって。リラックスした雰囲気を作ってくださいました。ただ、息子はもう、緊張と恐縮でアワアワしておりましたが(笑)。
Q:ご子息でなくても、誰だって皆、アワアワしちゃいますよ。だって大公殿下ですよ!
H:殿下は僕に向かって「あなたはルクセンブルクで有名ですよ。良い写真を撮ってくれてありがとう」とおっしゃられまして。私は「今回、19年ぶりに訪れました。この国の良い方向への変化を撮りたいのです。きっと世界のお手本になるのではないでしょうか」と申し上げました。殿下はさらに「腰の方はいかがですか?思いカメラは大変でしょう?」と、私が子供の頃に腰に患っていた病気のことをお気遣い下さって頂きました。僕の写真展にきてくれた若い女性が人生に失望し、生きる気力をなくしていたところ、私の写真をきっかけに人生をやり直そうと思ってくれた、というエピソードをお話したら「アーチストが、写真が人の命を救う。国を治めている者も人の幸せを求めてやまないのですが、それは、あなたが常に心から写真を撮っているからでしょうね」と。本当にありがたいお言葉をいただきました。
Q:素晴らしいですね。
H:ええ、私の人生の宝です。実は、僕がロンドンと福島で撮った写真集も持参しまして、殿下に見ていただきました。そうしたら、その写真集に僕のサインをとご所望されたのです。「うぁー」とおもいました。宛名はロイヤルハイネスと書くのが良いのか、英語でどう書くのが正しいのかわかりかねまして、日本語へ「大公殿下様へ」と書いてサインをしました。大公殿下は「この写真集は、僕のプライベートルームに保管するので、他の誰も見ないよ」と茶目っ気たっぷりにおっしゃっていましたが。本当に、びっくりの連続でした。
Q:今回は総理大臣にもお会いになって、そしてグラメーニヤ財務大臣とも再会を果たされて。財務大臣とはどんなお話をされたのですか?
H:19年前のことを大臣がとてもよく覚えていらして、あの時はああだったよね、とか、一緒にライカを買いにいったよね、とか、思い出話がつきませんでした。財務大臣はご自身が大の写真愛好家でいらっしゃることもあり、1999年ですが、日本人の写真家にルクセンブルクの撮影を依頼し、東京で展示会を開くというプロジェクトの発案者でした。ジャン大公ご夫妻、現在のアンリ大公のご両親の訪日にあわせた、このプロジェクトは大成功でした。大臣はこのことを「私のキャリアの中でも、忘れがたい、誇りに思う仕事だ」とおっしゃっていました。
Q:写真集のタイトル「Timeless in Luxemburg」もグラメーニヤ大使が名付けられたのですよね。
H:そうです。
Q:そして、今年の11月に「Timeless in Luxemburg」第2弾が出版されるのですね。今からとても楽しみです。どんな写真集になるのか、ちょっとだけ、差支えない程度で結構ですので、教えていただけませんか?
H:前回の写真集はフィルムで撮影したモノクロでしたが、今度の写真集は、現在の駐日ルクセンブルク大使、ベアトリス・キルシュ閣下からの要望で、カラーで、デジタルで撮りました。キルシュ大使は、自らコーディネーターの方をアレンジして下さったり、本国とのやり取りに心を砕いて下さったりしてくださって。今回、非常にお世話になりました。撮影のスタイルはデジタルになっても、今回も「人」に焦点を当てていることに変わりはありません。街中で、風景の中での人々の佇まいを撮影しました。
Q:「人」ですか。
H:もちろん、風光明媚なところもカメラに収めていますが、人物写真の専門家としては、人物を撮ることは、被写体になって下さった方々と写真家との交流の上に成り立つものと思っています。従って写真家と被写体になって下さった方々の素の心が写真に写るわけです。
Q:なるほど。
H:「今」のルクセンブルクの素顔が撮れたと思います。
Q:写真集を拝見するのがますます楽しみになってきました。最後になりますが、ハービーさんのルクセンブルクの印象と、LIEFの読者の方々へのメッセージをお聞かせください。
H:ルクセンブルクは、箱庭の様に整った国土に、全てが調和しつつ収まっている国です。今回の来訪で毎日、すごく沢山歩いたのですが、どこを見ても表情が違っていて、飽きない。暮らしている人々もバラエティに富んでいて、味があります。歴史とそして未来が感じられます。パリから2時間で行けるので、ぜひ皆さんに訪れてほしいですね。人間が失ってはいけないことが見え隠れしている、人生のヒントが得られる場所ですよ。
Q:素敵なコメント、ありがとうございます。今日は本当に楽しかったです。
H:私も楽しかったです。
Q:今日は本当にありがとうございました。
H:こちらこそ、ありがとうございました。

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ハービーさんのお話をうかがっていると時間はあっという間に経ってしまいました。人との交流が写真を撮る上での根底にある、と言い切るハービーさんだからこそ、アンリ大公の「素」をしっかりと感じ取られているのですね。今回もご子息の大輝(ひろき)さんが撮影して下さった、インタビュー中のハービーさんの写真を使用させていただきました。(文責:事務局)