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「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔(9)

「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔 
第9回: ティエリー・ウォルターさん (Mr. Thierry Walter) ― 前編

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回、登場いただくのは、上智大学の大学院に留学中のティエリー・ウォルターさん。高校生の時には石川県にホームスティした経験を持つ「日本通」です。

事務局(以下、Q):こんにちは!大学が始まってお忙しいでしょう。今日はお時間いただいてありがとうございます。
ティエリー(以下、T):こんにちは。お声がけいただいてありがとうございます。大学は午前中がメインなので、大丈夫です。
Q:まずは自己紹介をお願いします。
T:はい、ティエリー・ウォルターです。年は22歳で、9月から上智大学の大学院に通っています。日本語の能力をもっと向上させたくて。
Q:日本語を専攻してらっしゃるの?
T: はい、フランスのエクス・マルセイユ大学(Université d’Aix-Marseille)の大学院で、ビジネスと日本語を専攻しています。
Q:ダブル・メジャーですね。大学時代もそうだったのですか?
T:そうです。大学もエクス・マルセイユで、ビジネスと日本語を学びました。
Q:何故、日本語を専攻しようと思われたのですか?日本に興味があった?
T:5年前、高校生の時に石川県に2週間ほどホームスティをしまして。
Q:石川県のどこですか。
T:金沢市です。ルクセンブルクの商工会議所が主催するプログラムで。石川県とルクセンブルクはカーゴルクスが小松空港から国際貨物便を就航させていることもあり、関係が密だからかもしれませんね。
Q:ああ、なるほど。
T:もともとのきっかけは、友達から相談を受けたことで、彼が僕に「こういうプログラムがあって受かったのだけれど、日本に行こうかどうしようか迷っている」と僕に言いまして。その時まで、僕はそのようなプログラムがある事を知りませんでした。で、面白そうだと思って、僕も受けてみる事にしました。当時は日本についてほとんど何も知らなかったけれど。
Q: 5年前、ということは東日本大震災があった2011年ですよね。ご両親は心配されませんでしたか?
T:反対されました。両親は特に放射能の影響を心配していました。それで、日本の地図を見せて、金沢は震源地から距離がとても離れていること、例年は東京のルクセンブルク大使館に表敬訪問するけれど、その年は東京にもいかないことを説明して納得してもらいました。
Q:非常に論理的ですね。2週間のホームスティのプログラムはいかがでした?
T:とても充実した2週間でした。ホストファミリーと京都や白川郷に行ったり、小松市の中学校でカリグラフィー、お習字、のレッスンを受けたり。もちろん兼六園も行きました。それから金沢の商工会議所や、役場を訪問して短いスピーチをしたり、石川県の知事さんにお会いしたり。
Q:盛沢山ですね(笑)。
T:そうですね(笑)。皆さんにとても優しくしてもらいました。日本人の優しさにビックリしました。ただ、ハッキリ言ってくれないので、僕に何を期待されているかが分からなくて、どうしたらいいのかな、と迷う事がありました。
Q:ああ、わかります。ところで、悩んでおられたご友人はどうされたのですか?日本にホームスティした?
T:いいえ、彼はホームスティのプログラムを辞退して、結局、日本には来ませんでした。
Q:そうですか。先ほど、日本人ははっきり物を言わないので困った、と言われましたけれど、その他に困ったことはありませんでしたか?食事とかは大丈夫でした?
T:大丈夫でした。日本料理、好きです。お刺身も美味しいし。納豆は、はじめは厳しかったけれど、今は食べられるようになりました。
Q:そして、高校卒業後、エクス・マルセイユ大学に進む訳ですが、この大学を選んだ理由は日本語のコースがあったからなのですか?
T:ビジネスと日本語、この両方を学べる大学は、パリとリヨンとエクス・マルセイユの3校だけでした。それから、叔母がフランスの人と結婚してエクス・アン・プロバンスに住んでいたので、家族でよくプロバンスには行っていました。ですから進学先を選ぶ時は迷いませんでしたね。
Q:加えて、気候も良いし、食べ物も美味しいし(笑)。
T:はい(笑)。
Q:それで、今年、日本に再来日したのですね?
T:いえ、大学生の時も2度ほど日本に来ました。2013年、大学1年生の時に3週間日本を旅行して、2015年は北海道で2か月暮らしました。その内の1か月間は羊蹄山(ようていざん)のそばのうどん屋さんでアルバイトして。
Q:え、うどん屋さんでアルバイト!?もう少し詳しく教えてください。
T:ウーフ(WWOOF)という、お金のやり取りなしで「宿泊場所、食事」と「労働力、知識・経験」を交換するプログラムを利用しました。それで、うどん屋さんでホームスティをして働きました。もちろん、お給料はなしです。
Q:おお、すごい。飲食業のアルバイトはきつくなかったですか?
T:体力的にはちょっと厳しかった(笑)。朝8時くらいから仕事が始まって、終わりは夜8時くらいかな。お休みは週1回。でも、面白かった。良い経験です。飲食店で働いたことは今までなかったし。
Q:日本だと、高校生や大学生が飲食店でアルバイトすることが割に普通に行われているけれど、ルクセンブルクではどうですか?
T:学生が飲食業のアルバイトをするケースは少ないと思います。僕の場合は、高校の夏休みとかに役所でアルバイトした事はありましたけれど、飲食業は未知の世界でした。
Q:しかも、羊蹄山の麓のうどん屋さん!羊蹄山は蝦夷富士とも呼ばれる美しい山ですが、あの周辺はハッキリ言って、かなり田舎ですよね。お客さんに珍しがられませんでしたか?
T:そのうどん屋さん、海外からのアルバイトがいる事で有名なお店みたいです。珍しがられはしませんでした。確かに田舎でバスもあまり走っていないからお休みの時もどこにも行けませんでしたが(笑)。実はうどん屋さんの後、もうひとつ、ウーフをしました。
Q:もうひとつ?今度はどこで?
T:札幌にあるペラペラスタジオという英語保育園で1か月間、また、ウーフで英語を教えました。うどん屋さんと同じようにとてもいい経験でした。ゆみこ先生という上司がバイリンガル日本人を育てたいという夢を持っていて、年中、外国人の方をスタジオに誘って2歳から15歳ぐらいまでの子供たちに英語のゲームやレッスン、実験を提案します。例えば、メモリカードを使って英語の語彙を楽しく勉強させたり、若者向けの簡単な化学と物理学に関する実験を英語で説明したり、大人1人と子供4人で近所の遊び場に行ったりしました。子供4人の相手を1人でするのは結構大変で、その時だけはいつもストレスが溜まってしまいました(笑)。ゆみこ先生は、そのスタジオを(ミゲルという犬を飼っていますが)おひとりで取り仕切っていて、僕、彼女をとても尊敬しました。札幌でのウーフは、自由な時間もたくさんあって、ビールガーデンやジャズ祭りなど、札幌の良さを味わうこともできました。
Q:なるほど。そして、今年の3月に来日して、9月から上智大学の大学院。
T:はい、そうです。4月~6月はルクセンブルク大使館のインターンとしてレポート作成やアーカイブの整理、イベントのお手伝いなどをさせてもらい、9月から上智の学生としての生活がスタートしました。日本のキャンパス・ライフ、とってもいいですね。
Q:というのは?
T:エクス・マルセイユ大学では、学生は授業の後はすぐ帰ってしまうから何のイベントもないし、大学のサークル活動というのはなくて、例えば音楽をしたかったらコミュニティの音楽サークルに入らなければなりません。コミュニティのサークルだから当然、年齢層も様々です。同世代の交流という面で日本の大学のシステムは素晴らしいです。
Q:そうですか!ティエリーさんは上智大学でサークルに入りました?
T:はい「国際交流」と「料理」、二つのサークルに入っています。(以下、次号)

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流暢な日本語で折り目正しく答えてくれるティエリーさん。非常に謙虚で真面目な好青年です。日本の生活と上智でのキャンパス・ライフを心から楽しんでいるのが分かり、筆者も(まるで我が息子の事のように)嬉しくなりました。次回はティエリーさんのキャンパス・ライフや日本の人達との交流について、そして将来の抱負についてお話を伺っていく予定です。どうぞお楽しみに!  (文責:事務局)