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「人」コラムールクセンブルクの横顔 特別篇(7):センス・オブ・ジャパン マネージング・ディレクター 林 治美さん (Ms. Harumi Hayashi)

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回、日本酒をルクセンブルクに輸入販売しているセンス・オブ・ジャパンのマネージング・ディレクター林治美さんにお目にかかる機会を得ました。ルクセンブルクでのビジネスと生活を中心にお話を伺っていきます。

事務局(以下、Q):こんにちは。忙しい中お時間をとっていただきありがとうございます。ルクセンブルクでビジネスを展開されているとお聞きし、是非お話を伺いたくて参上しました。
林(以下、H):初めまして。センス・オブ・ジャパンの林です。どうぞ、よろしくお願いします。
Q:日本酒の輸入・販売をされていると伺いましたが?
H:はい、2年前の2017年にセンス・オブ・ジャパンを設立しまして、これはルクセンブルクの人たちのお口に合う、と思う日本酒をルクセンブルクに紹介しています。日本酒の輸入・販売がメインですが、ビジネスを進めていくうちに、ご縁ができまして、ルクセンブルクのチョコレートを日本に紹介することも行っています。
Q:チョコレートの輸出ですか?ルクセンブルクのチョコレートは本当に美味しいですよね、まだあまり日本では入手できないので期待が膨らみます。どんなチョコレートを扱っていらっしゃるのですか?
H:例えば、トリサントネール(Tricentenaire)のチョコレートをバレンタイン用に三越さんにご紹介させていただきました。トリサントネールはルクセンブルクの障がい者の方々の施設なのですが、ルクセンブルクという国の豊かさを表している素晴らしいアトリエで、深い味わいの、風味豊かなチョコレートを作っています。今はサロン・ド・ショコラ(パリ)で最高賞に2回も輝いたショコラティエ、ジェナヴエ(Genaveh)さんとのお話を進めている所です。セップドールのオーセロワワインを干しぶどうに付け、チョコレートでコーティングした製品で、味も最高ですが、パッケージも素敵なのですよ。2019年度ルクセンブルクデザインアワードのパッケージデザイン部門で金賞を受賞しており、ジェナヴエの製品はムダム(MUDAM:国立現代美術館)でも販売されてもいます。
Q:多角的にビジネスされているのですね。そもそも何故、日本酒の輸入を初められたのですか?
H:日本への旅行者の方々も増えており、和食に対する興味も高まっていましたが、以前は美味しい日本酒をルクセンブルクで入手することは難しい状態でした。運よく入手できても、日本人が好む味がルクセンブルク人の口に合うとは限りませんし、保管の方法などもまだまだ知られていなくて、日本酒の本当の良さがきちんと理解されていなくてとても残念だな、と思ったことがきっかけですね。日本酒の美味しさを広めたい、と思いました。
Q:もともと食品のお仕事をされていたのですか?
H:いいえ。全然(笑)。
Q:あらら(笑)。あっさりおっしゃいましたが、ルクセンブルクで起業するのは大変でありませんでしたか?
H:会社設立にあたっての書類を準備して、政府発行の免許を頂いて。それからアルコールの輸入許可証を頂く手続きをしました。ルクセンブルクには2006年から住んでおりまして、手続きが大変だとはそれほど感じませんでしたね。3月に会社を設立して、それから利き酒師の免許も取って、どの銘柄を選ぶかリサーチして。最も頭を悩ませたのはどの銘柄を選ぶか、ですね。
Q:ああ、ルクセンブルクの人たちの口にあう、これは!というお酒こそがビジネス成功の鍵ですものね。
H:その通りです。実際に自分で飲んでみて、感じる経験が大切で、できる限り試飲をして銘柄を選びます。展示会に出かけたり、日本に帰った時には日本酒バーで飲み比べを頼んだり。デパ地下の試飲コーナーも活用しますよ(笑)。総じてヨーロッパの人たちはフルーティで飲みやすいものを好まれますね。最初に選んだのは「獺祭(だっさい)」です。「獺祭」はジョエル・ロブションさんとコラボレーションした実績もある、欧州でも非常に人気の高い銘柄です。私の両親が山口県の出身で、その縁もございましたもので、蔵元の旭酒造さんの桜井社長に直接お願いしてみました。ロット数の関係もありまして、直取引ではなく「獺祭」の欧州代理店と取引しています。
Q:「獺祭」はたしかに日本だけでなく世界で名を馳せていますよね。たしかに馥郁としたフルーティなお酒ですね。その他に仕入れていらっしゃる銘柄は?
H:三重県の清水清三郎商店さんの「作(ザク)」です。こちらは直に取引させていただいています。
Q:伊勢志摩サミットでサーブされた?
H:そうです。「作」は噂には聞いていたのですが、なかなか飲む機会がなくて。娘と三重県を旅行していた時に、賢島の滞在先のホテルで「作」をついに飲むことができました。期待値以上の味わいで、これだ!と思いました。帰路、東京の三重テラスにかけこんで蔵元を紹介していただきました。
Q:わ、さすがの行動力!
H:幸い、蔵元の奥様がヨーロッパ市場にご興味をもってくださっていて、商談をさせていただくことができ、今に至っています。フルーティな微炭酸のすっきりした飲み口で前菜からチーズまで合う銘柄です。ミシュラン一つ星のクレールフォンテーヌ(Clairefontaine)で飲み物とお食事がセットになったメニューがあるのですが、そのメニューに取り上げていただきました。老舗のカフェレストラン、ブラッスリー・ギヨーム(Brasserie Guillaume)、アトリエ・ウィンザー(L’Atelier Windsor)にも「作」を収めておりますし。あとは、最新モードのお店SMETSのレストラン262(Two6Two)には柚子酒を入れています。
Q:すばらしいですね。ビジネスをしていく上で有利な点や、逆に難しい点はありますか?
H:そうですね、良い点としては、小さなコミュニティなので顔を覚えてもらいやすいということですね。関税の手続きの担当者の方や受取の担当者の方が常に同じ方ですので、顔見知りになり、物事がスムーズに運びやすいです。あと、質の高い生活を送っている方々が多い、豊かな国なので、良いものをわかってくれる、ということでしょうか。逆に難しい点は小さな市場ですので、量は売れないということ、かな。
Q:ああ、良く分かります。国の人口自体が60万人ちょっとですものね。話は変わりますが、林さんは何故ルクセンブルクに?
H:夫の転勤です。
Q:あ、そうなのですか?差し支えなければ、林さんの経歴をお伺いできますか?
H:日本で欧州系の輸入会社を経て、フランスに本校のあるファッションの学校の事務局に勤務しておりました時に、フランス本校で働かないかと請われまして1998年からパリ勤務となりました。
Q:では、当時からフランス語は堪能だったのですね?
H:いえいえ。カトリック系の学校に通っておりましたので、小学校4年生からフランス語の勉強がありましたけれど、唄を歌うとか、本当にお遊び程度で…。幸い、パリ勤務のお話は、勤務を開始する前に6か月間マーケティングの専門学校に通う、という条件でお話を頂き、その間、語学学校にも通って頑張って身につけました。パリで結婚、出産し、夫の転勤で2006年にルクセンブルクに移りました。娘が1歳のころですね。
Q:小さなお子さんを伴っての引っ越しは色々と大変だったでしょうね?ルクセンブルクに対する予備知識はあったのですか?
H:正直、ございませんでした。そんな国があるの?と思ったくらいで(笑)。ですが、ルクセンブルクは子育てに適した国だと思います。生活のクオリティが高く、安全で、アットホームなコミュニティですから。娘は今、中学3年生でフランス語系の中高一貫校に通っています。
Q:お子さんの教育についてはどの親御さんもあれこれと迷うこともあるかと思うのですが、ルクセンブルクの公立の学校に通うという選択肢はありませんでしたか?
H:公立の学校は、何か国語も学ぶシステムになっており、幼稚園でルクセンブルク語、小学校2年生からは算数の授業はドイツ語、その後、フランス語と続きます。子供が小さな内は親も勉強をみてあげなければなりません。夫はフランス人ですので、フランス語は大丈夫ですけれど、他の言語はさすがに厳しいです(笑)。
Q:なるほど。
H:娘は週2回、日本補習授業校にも通っています。日本の教科書を使って、小・中の数学と国語を教えてくれる学校で、先生方も日本人です。こちらの学校は運動会や七夕、餅つき、豆まきなど、行事も盛んです。
Q:林さんがビジネスをスタートすることについて、ご家族の反応はいかがでしたか?
H:ポジティブでした。頑張ってやってみたら?と。
Q:ああ、それは嬉しいですね。最後になりますが、今後の抱負をお聞かせくださいますか?
H:現在、日本酒の美味しさ、素晴らしさを伝えるための活動に取り組んでいます。和食の老舗のかまくらさんやムダム(国立現代美術館)で日本酒のイベントを開催させていただいたり、リカーショップに日本酒はワインと違って冷蔵庫での保管が必要なことをお伝えしたり。レストランの他、一般の方を対象にネットで販売しています。ルクセンブルクは、先ほども申しましたが、生活の室が高く、客単価もパリに比べると高い土地柄で、良いもの、美味しいものに対する需要が常にあります。私は日本酒は日本の文化の素晴らしさを表現してくれるもののひとつ、と思っていますので、1軒でも多くの、きちんと温度管理をしてくれるレストランとお取引させていただきたいですし、一人でも多くのルクセンブルクの方に日本酒を楽しんでいただきたいです。大きな目標としてはルクセンブルクのご家庭にワインと同じように日本酒がある生活をもたらすこと、ですね。
Q:それは本当に素敵な目標ですね。ぜひ、日本酒ファンを拡大してください。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
H:こちらこそ、ありがとうございました。

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林さんにお目にかかる前は、エネルギッシュなビジネスウーマンを想像しておりましたが、待ち合わせ場所にいらっしゃったのは、たおやかでエレガントな淑女。ゆったりとした口ぶりのお話を伺いながら、内面の芯の強さ、日本の文化と日本酒にたいする愛情がひしひしと伝わってきました。メインビジネスの日本酒に加え、ルクセンブルクのチョコレートを日本に紹介する段取りも進めてられているとのこと。ますますのご活躍を楽しみにしています。 (文責:事務局)

「人」コラムールクセンブルクの横顔 特別篇(7):センス・オブ・ジャパン マネージング・ディレクター 林 治美さん (Ms. Harumi Hayashi)