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「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔 (6)

第6回:ジュリー・ハヤルさん(Ms. Julie Heyart)―後編

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
前回に引き続き、ご登場いただくのは、慶応大学の大学院に在学中のジュリー・ハヤルさん。16歳で初来日し、日本での生活は通算で2年半目になる彼女に来日当初の印象や日本人観、ルクセンブルクとの違いを伺いました。

事務局(以下、Q):日本人は礼儀正しいとか、物理的な距離をきちんととる、とか、ジュリーさんから嬉しい言葉を頂いて、ちょっと面映いのですが、もう少し日本の印象をお聞かせ願いますか?初来日の時はどんな印象を持ったのですか?
ジュリー(以下、J):まだ、16歳だったので、極めて単純というか、表層的なものでした。当時、藤沢市の江ノ島の近くで1か月ほどホームスティしたのですが、藤沢って大都会だ、と思いましたね。JR駅前にデパートがある!(笑)ルクセンブルクでは大きな商業ビルがなかったので。
Q:日本の地方都市は大概、駅前にデパートがあります(笑)。
J:その通りですね(笑)。その時はまだ東京に遊びに行ったことがなかったし、判断の基準が今まで住んでいたルクセンブルクの故郷の街と藤沢の比較でしたね。人がいっぱいいて混んでいるな、とか、緑が少ないな、とか。今でこそ、藤沢市のある湘南地区は日本の中でも特異な場所のひとつで、ひとくちに日本と言っても様々な地域性があることを理解していますが、なんといっても生まれて初めて日本にやってきた高校生でしたので(笑)、藤沢イコール日本と考えていた所がありますね。
Q:では、今の印象はどうですか?初来日の時に比べて変わったことはありますか?
J:基本的には変わっていません。日本の方は親切だとずっと思っています。先ほども言いましたけれど、人へのスペースに気を付けてくれる。気配りを大切にする人達だと思います。私にとって日本は、静かで平和的な国。例えば、東京はあれだけ人口が多いのに、静か。とても落ち着いているとおもいます。それから、外ですごく怒って怒鳴り散らしている人とかファイティング、争いとか喧嘩を見ない。
Q:ああ、物騒な街は、世界にはいっぱいありますものね。特に大都会では。私も、都市名は伏せますが、相手は誰もいないのに、ひとりで怒鳴っている人とか、急に奇声をあげる人とか、飛んじゃっているというか、もう怖くて側に近寄れない感じの人、結構見ました・・・。
J:ですから、日本で暮らすと、そういうピリピリした緊張を強いられない。身構えたり、攻撃的になったりしなくて済むので、心穏やかに暮らせてありがたいです。
Q:なるほど、キーワードは「穏やか」ですね。
J: はい。私にとっては非常に大切なポイントです。あと、日本の印象というか、すごいな、と思うところはEverything functions wellでしょうか。もう、すべてが期待通りにきちんと動く。宅急便を出したら、指定日、指定の時間にキチンと届く。電車やバスは時刻表通りに動いていて遅れないし、遅れた場合はすごく謝るでしょう。本当にすごい。
Q:ルクセンブルクはどうですか?
J:結構、機能的に動いていると思います。小さな国なので運営が楽なせいでしょうか。
Q:いや、規模の大小とかではないと思いますよ。では、反対に日本に対して、または日本人に対して、これは嫌だなとか改善してほしいな、と思うところは?
J: 日本に住んでいるので、日本や日本人に対して注文をつけるのは、おこがましいというか、適切な事でないと思うので・・・。
Q:了解しました。ジュリーさんのほうがとっても礼儀正しいですよ。日本人以上です(笑)。ところで、話は変わりますが、ジュリーさんは移動の手段として自転車を活用されていますよね。ルクセンブルクは自転車大国と言われていますが、日常の足としても自転車が使われているのでしょうか?
J:あ、それは無いと思います。私の父も自転車が大好きですけれど、父にとって自転車はスポーツです。サイクリング。日常の移動の手段はクルマやバスで、一般的には自転車は使われていないと思います。私も高校生の頃はバスで移動するのが常でした。
Q:そうですか。自転車が日常の移動の手段なのはアジア圏だけなのかな。
J:パリにレンタルサイクルがありますよね、ヴェリブ。ルクセンブルク市でもレンタルサイクルを導入したと聞いています。(事務局注:Vel’ohというルクセンブルク市市営の貸自転車http://www.lu.emb-japan.go.jp/japanese/ryoji/seikatu/vel’oh.htm)。ママチャリとはちっと意味合いが違うかもしれませんけれど(笑)。
Q:そうですね、お子さんや食料品を荷台に載せて、というのとはちょっと違うかもしれない(笑)。現地ではどういうふうに活用されているか、調べてみると面白いかもしれません。さて、ジュリーさんは日本の生活にすっかり溶け込んでおられますが、今後もずっと日本に住む予定ですか?今後のプランというか抱負をお聞かせください。
J:まずは卒論の準備に集中します。「移民」をテーマにしようと考えておりまして、色々と調べたり、考えをまとめたりしなければなりません。その後については、未定です。他の色々な国に住んでみたいな、とも思いますし。
Q: お仕事はどうですか?将来、どんな仕事に就きたいですか?
J: そうですね…以前、NGOでインターンをしたこともあるので、出来れば人道的な支援をする仕事をやってみたいと思います。
Q: なるほど。国際機関とか。ジュリーさんにぴったりかも!
J: ありがとうございます。希望の職種に就くことは難しい事かもしれませんが、今までの経験を役立てることが出来て、人の助けになる仕事がいいです。組織の形態にかかわらず、そこが何をしている所で、私がどう貢献できるか、よく考えてトライしていきたいですね。
Q:ぜひ、世界を股にかけて活躍してくださいね!本日はありがとうございました。
J:こちらこそ、ありがとうございました。

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ジュリーさんと話している間中、「温厚」、「謙虚」、「聡明」という言葉が思い浮かびました。日本や日本人に対する苦言を差し控えるあたり、なんと奥ゆかしいのだ、と(文句や不平をすぐ口にする)筆者は暫し反省。きっと、どの国で暮らしても、穏やかで芯の強いジュリーさんの持ち味は変わらないだろうと思います。でも、それは先の話。今は日本で学業に専念して、卒論、頑張ってください。                  

(文責:事務局)