gastronomy

ルクセンブルクの食文化と伝統行事

現代のおとぎ話

「モダン・フェアリーテール(現代のおとぎ話)」。ルクセンブルクの今の姿をこう表現する人がいます。フランス、ドイツ、ベルギーに囲まれた神奈川県ほどの国土に点在する古城、豊かな緑、中世の面影を残す町並み、そして国民に慕われるアンリ大公とそのご一家。そんな優雅な印象のルクセンブルクは、実は国民一人当たりGDP(国内総生産)世界一の豊かな国でもあります。欧州政治経済の中心的役割を担い、多数のEU機関や世界有数の金融センターを有しています。度重なる戦火をくぐり抜けてきた小国がなぜ?と思われるでしょう。その答えは自らの立場を理解する賢さと国民の間の連帯感にあるようです。ルクセンブルクという国の物語には、小さくてもキラキラと輝く宝石を見つけたような、そんな喜びが隠れているのです。

ルクセンブルクの食卓

真面目でシャイな人が多いルクセンブルク人は、いったん仲良くなるとおせっかいなほど世話焼きです。独特の辛口ユーモアも親しい間柄だからこそ許されるもの。固い絆の裏返しなのです。そんな彼らの楽しみは美味しい食事を家族や友人同士で楽しむこと。ルクセンブルクの食事は「フランスの質、ドイツの量」と言われる通り、手の込んだ料理が山盛りに出てきます。国民一人あたりのミシュラン星の数が世界一というのもうなずける食いしん坊のルクセンブルク人。まずは自慢のスパークリングワイン、「クレマン・ド・リュクサンブール」で乾杯してからゆっくりと食事を楽しみます。生産量の少ないルクセンブルクワインは日本ではほとんど知られていませんが、実は国際ワインコンクールでメダルを多数獲得する実力派。最後のデザートは食事のハイライトで立派な紳士も目を輝かせます。実はルクセンブルクはフランスやベルギーに負けないお菓子の美味しい国なのです。

ルクセンブルクの名物料理はなんといっても「パテ・オ・リースリング」。街でパン屋や総菜屋のウィンドーを覗くと、出べそのような丸い輪が上についている細長いパイ包みのパテがたくさん並んでいます。中には仔牛と豚で作ったパテとリースリングワインのジュレが詰まっていてサイズも店により様々。1920年代にルクセンブルク市で町の名物になるような美味しい物を作ろうという機運のもと、ある菓子職人によって開発されたメニューだそうです。それ以来どの店でもこの手の込んだパテを作り始め、国民から愛される定番メニューになったとか。ここにも、ルクセンブルクの人たちの美食に対する並々ならぬ意欲と仲間意識が感じられますね。

お祭りに息づく歴史と伝統

ルクセンブルクには670年以上続く由緒あるお祭り「シューバーファウアー(Schueberfouer)」があります。1340年に盲目王ジャンによって始められたこのイベントは今ではヨーロッパでも有数の規模の移動遊園地として知られ、毎年夏の終わりに多くの人でにぎわいます。屋台で人気の食べ物の一つが“ルクセンブルガー”ソーセージ。その場でグリルしてパンにはさんで手渡ししてくれます。ビールにもワインにもよく合います。

子供たちは夏にはシューバーファウアーを、冬には聖ニコラの到来を楽しみにしています。12月6日の朝になるとルクセンブルクの子供たちは起きてすぐドアの外を確かめます。聖ニコラが1年間良い子にしていた子供たちにお菓子やプレゼントを置いていくといわれているからです。聖ニコラ(ルクセンブルク語ではクレーシェン)はサンタクロースの原型と言われ、ロバに乗り、ホゼカーと呼ばれる黒い顔の従者を連れて登場します。聖ニコラは3,4世紀頃の実在の人物でミラという町(現在のトルコ)のキリスト教の司教でした。貧しい子供たちを救うことに生涯をかけたことから子供の聖人として様々な伝説が生まれました。ルクセンブルクのお菓子屋さんではこの日に「ボックスメンチェン」という人型のパンが売られ、聖ニコラを象ったチョコレートやお菓子やクルミ、ミカンなどが盛られたバスケットなどが店頭をにぎやかに飾ります。この頃からルクセンブルクでも広場にクリスマスマーケットが立ち、家族が集うクリスマスに向けてわくわくする季節が始まるのです。