昨年、日本橋浜町のHama Houseで好評のうちに幕を閉じたルクセンブルクカフェが「LUXEMBOURG CAFÉ RETURNS」としてふたたび開かれています。今般、11月15日にワインテイスティング付きのビュッフェ・ディナーがあり、ルクセンブルク国立葡萄ワイン機構(IVV)のアンドレ・メーレンさんのとても興味深いトークショーがありました。ルクセンブルクワインの特徴から格付けの仕組みまでがよくわかるトークでしたので皆さんにご紹介します!(以下 アンドレさんのトーク)
「本日はルクセンブルクワインをご紹介したいと思います。ルクセンブルクの葡萄農家は340戸ありますが、土地面積は1,300ヘクタールしかありません。また、ワインを作るインフラを持つ生産者は60社のみです。年間生産量は1千万リットルで、うち9割が白ワインで残り1割が赤ワインです。また、全体の生産量のうち発泡性のワインであるクレマンが4分の1を占めています。1991年に誕生したクレマンは、当初は約227,000本しか生産していませんでしたが、今やその数は3百万本になっています。ルクセンブルクは1991年より前からシャンパーニュ製法(Méthode de Champenoise)で発泡性ワインを生産していましたが、シャンパンという名前はフランスのシャンパーニュ地方で生産されたもののみしか使えないという法律ができたため、クレマンが誕生したという経緯があります。ちなみにルクセンブルク以外にもフランスの7つの地域でクレマンを生産しています。
次に、ルクセンブルクワインの特徴をお話ししましょう。ルクセンブルクのワイン醸造家のほとんどはこの地で栽培される全ての葡萄品種から醸造されるワインを取り扱っています。しかし、葡萄の品種はそれぞれ個別の栽培方法があるので、ルクセンブルクの醸造家にはリバネールについてはリバネール、リースリングについてはリースリングというように様々な葡萄栽培のノウハウがあります。従いまして、葡萄からワインを醸造した後には、リースリングやピノブランは長い酸味、オクセロワやピノグリはソフトで独特な甘みなど、様々な品種から醸造されたワインにそれぞれの個性が出ます。このように幅広い味わいが楽しめることがルクセンブルクワインの特徴です。また、生産量は非常に少ないですが、Vendanges Tardives(遅摘み収穫ワイン)、Straw Wine(干し葡萄から作るワイン)、Ice Wine(樹上凍結させた葡萄から作るワイン)などの葡萄の残留糖分で作る凝縮した甘みをもつ特殊なワインも充実しています。
次に、ルクセンブルクの「Terrain」についてです(一般的なワイン用語ではフランス語の「Terroir(テロワール)」を使うことが多いですが、アンドレさんは「Terrain」をお使いでした。誤りを承知で和訳すれば「土地の個性」ですかね)。ご存知のとおりフランスのブルゴーニュでは「Terrain」でワインを語ることが多いですが、これはワインの特徴を決める土壌のことだけでなく、どのように生産者がワインを作るか、収穫期はいつかなど、あらゆるワイン作りのバックグラウンドのことを意味します。また、ピノ・ノワールやシャルドネといった単一品種でのワイン醸造に特徴のあるブルゴーニュと違って、ルクセンブルクではバラエティのある葡萄の品種が「Terrain」の構成要素に加わっています。
最後に、ルクセンブルクワインの格付けです。新しい品種管理基準では1ヘクタール当たりの産出量が最大100ヘクトリットルまでが格付けをとれる条件となっています。そして、フランスと同じく、地理的単位を使ってワインの格を表しています。つまり、地理的単位が小さければ小さいほど、ワインの格が上がることになります。さらなる格の向上を目指すには、地理的単位を小さくするだけでなく、産出量も少なくする必要があります。最大で1ヘクタール当たり75ヘクトリットルまで凝縮できれば、かなりの希少価値と格があるワインとなります。そして、産出量が少なくなるとその土地の個性として値する「Terrain」を語ることができるようになります。ワインの産出量の大小を勘案した地理的単位の呼び方は、最も大きい単位(=リーズナブルな質のワイン)が「Côtes de」、中間の単位(=より格が高いワイン)が「Coteaux de」、最も小さい単位(=最も格が高いワイン)が「Lieu-dit」です(これはワインのラベルを見れば分かります)。このシステムの背景にあるルクセンブルクワインのフィロソフィーは、産出量が少なくなれば格が高くなるということです。「QUALITY↑ QUANTITY↓=AOP(Appellation d’Origine Protégée<原産地呼称がルクセンブルク国家に保護されているワイン>)」の公式がイメージです。
AOPの格付があるルクセンブルクワインの産出構造を鳥瞰すると、25%が「Crémant de Luxembourg」、約50%近くがエントリーレベルの「Côtes de」呼称のワイン、20%が典型的なモーゼルワインである「Coteaux de」呼称のワイン、10%から5%が「Lieu-dit」呼称のTerrainを語れるワインとなっています。そして、「Coteaux de」と「Lieu-dit」呼称のワインだけが、伝統的な格付用語であるGrand Premier Cruなどを使えます。ルクセンブルク国立葡萄ワイン機構が作った基準に沿ったワインには「AOP MOSELLE LUXEMBOURGEOISE CONTRÔLÉE PAR L’ÉTAT」と書かれた定型のラベルがボトルの後ろに貼られます。素晴らしいワインのある小国ルクセンブルクをよろしくお願いします!」
以下↓はこのイベントでサーブしていただいたワインです。どれも逸品でした!