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「人」コラムールクセンブルクの横顔 特別篇(6): アニソプリント CEO フョードル・アントノフさん (Mr. Fedor Antonov)

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回、複合素材用3Dプリンティング機器を製造しているアニソプリント(Anisoprint LLC.)の創始者兼CEOのフョードル・アントノフ(Mr. Fedor Antonov)にお目にかかる機会を得ました。欧州でのビジネス展開の拠点にルクセンブルクを選んだ理由とスタートアップにとってのビジネス環境を中心にお話を伺っていきます。

事務局(以下、Q):こんにちは。忙しい中お時間をとっていただきありがとうございます。アントノフさんが日本複合材料会議(JCCM)のために来日されるこの機会にぜひお目にかかりたかったのです。アニソプリントがルクセンブルクに進出したとお伺いして。海外企業にとってのルクセンブルクのビジネス環境についてお聞きしたくて。
アントノフ(以下、A):初めまして。よろしくお願いします。はい、今回、日本大学の上田教授にお招き頂きまして来日しました。JCCMの基調講演で、次世代複合材料と構造のアディティブマニュファクチャリング(additive manufacturing of the next generation composite materials and structures with tailored directional properties)について話します。もちろん、せっかく日本に来たのですから、ビジネスミーティングも何件か予定していますが。
Q:アディティブマニュファクチャリングですか?ええと・・・付加製造???
A:はい、弊社は複合素材用の3Dプリンターを製造しておりますので。
Q:ああ、なるほど。改めまして、自己紹介をお願いします。
A:はい、アニソプリントCEOのアントノフと申します。弊社は新しいテクノロジーを使って複合素材用の3Dプリンティング機器を製造しています。4年前にロシアで開発をスタートしました。
Q:それで、現在、欧州市場で積極的にビジネスを展開されている。
A:はい。マーケットのポテンシャルを考えると海外でのビジネス展開は絶対必要でした。それでまず、どの地域をターゲットにするかを考えました。米国市場か、アジア市場か、EU市場かを検討した結果、我々のメインビジネスはヨーロッパで行う、ということになりました。海外展開の理由として、資金調達も大きなファクターでした。ロシアでは独立系投資家は皆無なのでスタートアップが資金調達をするのは非常に難しいのです。税制や裁判管轄権はどうなっているのか、スタートアップへの支援プロブラムはどうか、等々の項目についてスイスやオランダ、アイルランド、バルト諸国、キプロス、ルクセンブルクなど様々な候補国をリサーチしました。
Q:ルクセンブルクを選んだ理由をお聞かせいただけますか?
A:一番の理由は、迅速さ、でしたね。
Q:といいますと?
A:スタートアップにとって、「時間」は最も大切なものです。市場でのポジションの確立と利益を得るためには他社に追いつかれてはならない・・・。
Q:ああ、ファーストムーバーであることが大切なのですね。
A:その通りです。私たちのコンタクト先であるルクスイノベーション(Luxinnovation)の対応がとにかく素晴らしかった。メールにはすぐ返事をくれたし、様々な質問に対してもきめ細かく教えてくれて、とても良くサポートしてくれました。他国の企業はレスポンスが遅かったり、中には返事がこなかったり(苦笑)というケースもありました。
Q:ルクセンブルクは国自体がファーストムーバーですよね。海外からの投資を積極的に誘致していますし。
A:はい。多くのサポートがあって、ビジネスの自由度が高い、という点も魅力でした。それから、ルクセンブルクは小さな国なので、“皆が知り合い”ということも利点だと思います。イノベーション・サークルでは特にそうです。ビジネスの意思決定者、いわゆるディシジョン・メーカーにたどり着くまでの距離が短い。
Q:具体例はありますか?
A:例えば、ある問題を抱えていた時にそのことをルクスイノベーションに話したら、すぐに政府の担当の方に合うことができました。もう少し具体的にお話すると、ロシアからのビジネス移管に関して、ルクスイノベーションに質問したら、インテレクチュアル・プロパティ・センターのディレクターとのミーティングを翌日にセットしてくれました。政府だけでなく、大学や研究機関、ビジネス界のキーパーソンへのアクセスが容易で、これは特筆すべきことだと思います。
Q:そうですね。
A:プリンターをルクセンブルクに輸入して、欧州のある顧客に届けなければならなかった時にもサポートしてくれました。ちょうどクリスマス前で税関がすごく混んでいて、このままでは納期に間に合わない、という状況だったのですが、ルクスイノベーションが当局とのコミュニケーションをサポートしてくれて、そのおかげでクリアすることができました。
Q:国を挙げてのサポート体制ですね。
A:はい。研究開発へのサポートプログラムも充実しています。最大研究開発費の80%までをカバーする補助金システムがあり、アクティブに活動できます。しっかり活動してバリューを作っていく環境が整っています。それから、ルクセンブルクが「素材に強い」ということも弊社にとって大きな意味がありました。
Q:「素材」ですか?
A:はい。ルクセンブルクにはグッドイヤーのR&D拠点も、デュポンの生産施設もある「素材」のエキスパートです。優れたワークフォース、従業員が非常に多く、スペシャリストを容易に見つけることができる。さらに、宇宙などのフューチャーマーケットに力を注いでいるでしょう?我々の技術や製品をスペース企業、例えば衛星を作っている企業に提供するチャンスもある。
Q:なるほど。
A:もちろん、いいことづくめではありません。モスクワからルクセンブルクへの直行便がなく、フライトの便数も限られていますのでロジスティクスは容易ではありません。生活費やサービス関連費用も高く感じます。それから、時としてリーガルサービスやファイナンシャルサービスでの時間がかかりすぎることがある。
Q:たしかにそうですね。アニソプリントのヨーロッパ拠点はルクセンブルク以外にもありますか?
A:ドイツ生産施設があります。セールス活動はドイツでスタートしました。近々フランスでもセールス展開を開始します。顧客の近くにいることはとても大切なので。ルクセンブルクでは新しい研究開発に着手する予定です。
Q:ルクセンブルクが御社の欧州での研究開発の拠点になるのですか?
A:ハードウェア用のデザイン開発や素材開発、いうなればハードウェアのエンジニアリングとデザインの分野を中心に行います。現在、ロシアで行っているソフトウェアの開発も、将来はルクセンブルクでしたいですね。今、ルクセンブルク科学技術研究所(Luxembourg Institute of Science and Technology)と頻繁にコンタクトしています。素晴らしい人材の宝庫ですし、すごい機材を備えています。新しいプロジェクトを彼らと始める予定です。
Q:それは楽しみです。もっと色々とお伺いしたいのですが、そろそろ時間となってきました。最後にアントノフさんにとってのルクセンブルクについてお話いただけますか?
A:小さくて、コンパクトで、美しくて、公共交通機関が便利(笑)。何よりもマルチナショナルでコスモポリタンな国。ドイツやフランスで(ロシアから来た)自分を位置づけること、つまり社会の一員として溶け込むことはとても難しいことですが、ルクセンブルクでは違います。国籍に対する垣根のない国だと思います。ですから、欧米以外の国の企業がヨーロッパで仕事をするためには、ルクセンブルクはとても良いオプションだと思います。
Q:きれいにまとめてくださり、恐縮です。今日は本当にありがとうございました。
A:こちらこそ、ありがとうございました。

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アントノフさんのお話は、実にロジカルでクリア。さすが、新進のベンチャー企業のトップです。ロシア生まれのロシア育ちで教育もロシア国内で受けたということですが、非常にグローバルなビジョンをお持ちでルクセンブルクとの親和性の高さを感じました。ロシアの拠点である「スコルコボ・イノベーションセンター」(ルクセンブルクと提携を結んでいます)についてロシア版シリコンバレーと言われていますよね、とお伺いしたところ、「僕自身はそう呼ばれることに違和感があります。スコルコボはスタートアップ支援、教育、大企業のR&Dインフラ構築の3点を目的に人為的に作られたイノベーションのエコシステムなので、偶発的に発生したシリコンバレーとは違うと思うので」とのお答えでした。ルクセンブルクからの世界展開を楽しみにしています。 (文責:事務局)

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