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「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔 第26回:二コラ・リバーさん (Mr. Nicolas Libar) ― 後編  

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回もウィーン大学からの交換留学生として一橋大学に在学中のニコラ・リバー(Mr. Nicolas Libar)さんからお話を伺っていきます。

事務局(以下、Q):さて、日本での二コラさんのキャンパスライフについて教えていただきたいのですが、どのような授業を選択しているのですか?
リバー(以下、N):すべての授業を英語で行うインターナショナル・プログラムが中心で、あとは日本語コースを取っています。
Q:インターナショナル・プログラム、ですか?クラスメートはやはり、留学生が多いのですか?
N:そうですね、でも日本人の学生もいますよ。
Q:では、多国籍軍?
N:と、言えるでしょうね。
Q:それから、日本語のコース。漢字の読み書きも?
N:はい、もちろん。
Q:漢字は難しくないですか?
N:難しいとは思わないのですが、タイム・コンシューミングですね。一つの漢字を覚えるためには繰り返しのワークが必要なので、とても時間がかかります。
Q:ああ、分かります。ちなみに二コラさんは何か国語を読み書きできるのですか?
N:ルクセンブルク語、ドイツ語、フランス語、英語、スペイン語、そして日本語です。
Q:スペイン語も?
N:はい、ルクセンブルクでは、高校で外国語の選択授業があるのです。イタリア語かスペイン語。で、僕はスペイン語を選択しました。
Q:うーん。日本の一般的な高校生は英語以外の外国語を学校では学ばないだろうなぁ。私の祖父の時代の旧制中学では違ったのですけれど・・・。
N:一橋の学生は、英語で話すことを気後れするとてもシャイな人達と、海外に興味津々で英語で話したい人達に分かれているように感じました。
Q:おっしゃる意味、良くわかります。一橋大学の印象はいかがですか?
N:10万人以上の学生を有するウィーン大学に比べてなのですが、とても小さな大学だな、と思いました。それから、高校の延長的で。
Q:高校の延長?
N:はい、一橋では1限目、2限目が必修科目としてフィックスされています。これはウィーン大学とは違いますね。時間が決められることはありませんから。ウィーン大学では授業には出席せずにパソコンで授業を視聴して単位を取得する学生も多いのです。
Q:なるほど。
N:それから部活動やサークル活動も。ウィーン大学では、そういったキャンパスライフはないです。授業に出て、それから帰る。日本の大学はサークル活動が活発で、色々なサークルがありますよね。鉄道研究会とかポケモン同好会とか(笑)。ちょっとビックリしました。
Q:そのほかにビックリしたことはありますか?
N:そうですね。先生との会話、かな。ウィーン大学では先生と個人的には話さないです。
Q:距離感が違うのですね。
N:はい。先生の口調も違いますね。
Q:というのは?
N:ウィーン大学では先生と生徒はお互いが敬語を使いますが、日本では上下関係がはっきりしているというか、生徒は先生に対して敬語で話しますが先生は生徒に敬語を使わない。
Q:うーん、確かに。
N:教師と生徒だけではないです。学生の間だって、例えば、部活動で、先輩は「絶対」ですよね。後輩は先輩に本当に気をつかう。部活やサークル活動の中だけでなく、プライベートでも1学年上とわかったとたんに「先輩」ですよね。たまたま居酒屋で出会って、意気投合してタメ口で話していたのに、相手が年上とわかった瞬間に敬語になる。僕にはちょっとツーマッチです。そのような上下関係は見ていて胸が痛くなります。
Q:ああ、確かに。私がとある外資系企業に勤めていた時、英国人の社長と話す際には当然のごとく彼のファーストネームで呼んでいたのですが、その後に超日本的な組織に移ったら、○○さんという呼びかけさえNGで、役職名で呼びかけなれければならず、ものすごい違和感を覚えました。ちなみに先輩・後輩という日本語はとても訳しにくいです(笑)。
N:互いに礼儀正しく、が一番良いと思います。
Q:確かに(笑)。さて、二コラさんは今後どのようなキャリアをお考えですか?外交畑に進まれるのですか?在日ルクセンブルク大使館でインターンもされたのですよね。
N:大使館でのインターンシップは非常に面白かったです。今まで経験したことがありませんでしたし、密度の濃い1か月間でした。大使館の仕事は非常にダイナミックだと思います。僕はその一端を垣間見ただけですが、実務的な作業に集中する一方で、様々な方とお会いする時間も必要とされる。タフでエキサイティングな任務ですね。
Q:では、その道に?
N:選択肢のひとつだとは思いますが、正直に言ってまだわかりません。多分、まずは大学院に進むと思います。実は高校卒業後、6か月間ほど軍隊にいました。ソルジャー(一兵卒)として。その後、大学に進みました。
Q:ルクセンブルク陸軍ですか?
N:そうです。大学院で学位を取るとオフィサー(士官)として入隊できます。軍務に就くことも選択肢のひとつです。
Q:もしかして、二コラさんのバックパックは陸軍の?すごく素敵ですね。
N:ありがとうございます。丈夫で機能的ですよ。愛用しています。
Q:最後にLIEFの読者の方々にメッセージをいただけますか?
N:はい。興味のある場所があるのならば、是非、実際に行ってみることをお薦めします。その場所で実際に体験したことがかけがえのない財産となりますから、チャレンジしてみてください。
Q:百聞は一見にしかず、ですね。まったくその通りだと思います。今日はお忙しい中、お時間をいただいてありがとうございました。
N:こちらこそ、どうもありがとうございました。

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学業に柔道にとても充実した一橋大学のキャンパスライフを送っている二コラさんですが、ウィーン大学との違いを感じる事も多々あるのだな、とお話を伺っていて感じました。特に先輩・後輩のくだりは、もう我が意を得たり!ルクセンブルクの軍隊ではどうでしたか?とお聞きしたら、「もちろん、上下関係はあります。けれどもそれは軍務のために必要な規律です」とのお答え。ここでも「なるほど!」と思いました。将来、二コラさんが軍隊に入られたら、非常に優秀なオフィサーになると思います。 (文責:事務局)