ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回は、ピアニスト・作曲家として素晴らしい作品を演奏、発表なさっているフランチェスコ・トリスターノさん(Mr. Francesco Tristano)にご登場いただきます。フランチェスコさんは日本の文化にも造詣の深い、大の親日家。素敵なエピソードをたくさんお持ちです。
事務局(以下、Q):こんにちは。はじめまして。お忙しい中お時間をとっていただきありがとうございます。まずは今回の訪日の目的を教えていただけますか?お仕事?それともプライベートの「have fun」旅行ですか?
トリスターノ(以下、T):初めまして。お目にかかれて嬉しいです。そうですね、僕にとって日本での滞在は常に「fun」ですけれど、今回はこの春(今年5月)にリリース予定のアルバムのプロモーションと、表参道のVENTでのクラブギクが主たる目的です。新しいアルバムは昨年10月に東京でレコーディングしました。
Q:アルバムのタイトルは?
T:「Tokyo Stories」です。
Q:素敵ですね。トリスターノさんのオリジナル楽曲ですか?
T:はい、すべて僕の作品で、2年前にリリースしたアルバムの続編と言ってもよいかもしれません。シンセサイザーやジャンベ、ボーカルも使いました。
Q:わあ、どんな作品なのか、期待が膨らみます!日本には何度もいらしているのですよね?
T:ええ、もう40回以上ですね。
Q:そんなに!初来日は?
T:2000年の夏。18年前ですね。僕は17歳で、東京と新潟で小さなコンサートを開きました。コンサートのあと3週間ほど滞在して日本各地を回りました。福島や大阪、奈良、そして熊本。阿蘇山にも行きましたよ。日本の印象は強烈で、強い感銘をうけました。
Q:どんな印象でした?
T:当時、僕はニューヨークに住んでいたのですが、東京はニューヨークより大きくて、もっとクレージーだと(笑)。とにかく楽しかった。日本の文化や食べ物も大好きになりました。
Q:2011年の東日本大震災の後にもいらしてくださっていますよね。
T:ええ。2011年は大変な年でしたよね。来日をキャンセルするアーチストが続出しました。でも僕は日本のファンの皆さんをがっかりさせなくなかったし、大変な時期だからこそ、僕の音楽でメッセージを伝えたかった。
Q:ありがとうございます。初来日から18年経過して、日本に対する印象は変わりましたか?
T:変わったというよりも、深まりましたね。東京をもっと知るようになって、関係が深まりました。友人もおりますし、訪れる場所、お気に入りのラーメン店もある。「Home away from home」、第二の故郷とでもいうのかな、異国の地だけれども家に帰ってきたような感じ。
Q:ラーメン、お好きなのですか?
T:好きですよ。お寿司も好きです。
Q:一番お気に入りのラーメン屋さんは?
T:新宿の「氣華ラーメン」。すごく美味しいですよ。豚骨ベースなのですが、軽いというか、あっさり系で・・・(以下、詳しく説明)。僕の友人の店でもあります。
Q:ご店主とお友達なのですか?どうやって知り合ったのですか?音楽とラーメンの接点は少ないような気がするのですが・・・。
T:いえ、料理と音楽は非常に近いです。料理は様々な食材と調味料を合わせて、イマジネーションと技巧を凝らして一皿を作る。音楽もメロディーとハーモニー、リズム、それらを組み合わせて一つの曲を奏でる。
Q:なるほど!豚骨ラーメンも作る人によって味が違うように、同じ曲でも演奏家によって表現や印象が変わりますよね。
T:演奏家は音の料理人ですよ(笑)。実は僕、自分で料理をすることも大好きです。
Q:わかります(笑)。だって、ラーメンについてディテールまでしっかりお話くださったでしょう。ご自分で料理をしている証左です。さて、今後の音楽活動について少しお伺いしたいのですが、クラシックの枠に捕らわれず、テクノをはじめ多彩な活動をされているトリスターノさんですが、今後注力していきたい分野はありますか?
T: 僕には2つの大きな愛があって、まずはバッハの音楽。僕の音楽の根幹で、新たな解釈を今も探し続けているし、さらに研鑽を積んでいきます。2つ目は現代音楽。コンテンポラリー・ミュージックをありとあらゆるフォームで演奏したいです。
Q:ルクセンブルク人であることは、音楽活動での多様性、ジャンルにとらわれない姿勢に影響を与えていると思いますか?
T:よい質問ですね。影響はあると思いますよ。住んでいる人々の多様性はルクセンブルクの素敵な点のひとつです。僕自身、ルーツはイタリアで、祖父母の代にルクセンブルクに来た第三世代です。子供のころはお祖母ちゃん手作りのパスタやピザを日常的に食べていました。学校にいくと、友達の出身地は様々で、ユーゴスラビアからの難民としてやってきた子もいました。色々なバックボーンを持つ人達がいる、人種の坩堝であることはルクセンブルクの強みです。おそらく「生粋」のルクセンブルク人を探すのは難しいでしょう(笑)。多様性に対する許容度が非常に高い国で育ったことは、僕の考え方に影響を与えたと思います。
Q:話は変わりますが、トリスターノさんが日本に住むとしたら、どこに住みたいですか?東京ですか?
T: うーん。どこだろう?僕は新しい土地をあちこち訪ねるよりも、ひとつの場所を深く探索するほうが好きで、慣れ親しんだ場所の新たな側面を知りたいと思うタイプなのです。東京はエキサイティングだから、住みたい街ですけれど、もし東京に住むとしたら1年程度の滞在では無理ですね。大きすぎるから。そうそう、最初に来日した時に、僕が一番気に入った街が大阪。独自の文化があって、コンプリヘンシィブ。色々な要素がぎっちり詰め込まれていて。関西弁のアクセントも、関西の食べ物も、それから関西人のメンタリティーも大好きなので、関西に住む、という選択肢もありますね。大阪や京都に住めば1年でもかなり街に知悉できると思います。東京ほど大きくないから。
Q:関西の文化は関東とは違った魅力にあふれていますものね。最後にLIEFの読者の皆さんにメッセージをお願いできますか?
T:ルクセンブルクは非常に小さな国ですが、地政学上の要にあり、歴史と美しさに溢れた魅力的な国です。是非遊びに来てください。できれば夏にいらっしゃることをお勧めします。街の景観、石造りの要塞。中世ローマ帝国時代からの歴史が息づいて、一見の価値ありです。きっと気に入ってくださるとおもいますよ。
Q:ありがとうございます。日本からルクセンブルクを訪れる旅行者の数は近年、増えていますが、トリスターノさんのメッセージでさらに訪問者数が増えそうです。今日は本当にありがとうございました。
T:こちらこそ、ありがとうございました。
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バッハ、テクノ、シンセ、坂本龍一さんをはじめとする日本人アーチストの共演。トリスターノさんの活動はとどまることがないようです。ソフトな語り口と華奢な体で、私の中では「静」のイメージがどちらかというと強かったのですが、演奏している姿、そして奏でる音楽に接して「しなやかな強さ」を感じました。3人のお子さんは日本の名前を持っているそうで、理由を尋ねたら「僕は日本の文化が大好きだから。ヨーロッパの名前もミドルネームにつけたけれど」との由。「Tokyo Stories」の発売を楽しみにしています。
(文責:事務局)