欧州には小さな都市にもオペラハウスがあり、シーズンともなると毎晩のように上演されますが、ルクセンブルクにはオペラハウスはなく、年に数回市内の劇場で上演されます。何故オペラハウスがないのか、現地の人によれば、今のように産業が興隆したのは20世紀に入ってからであり、宮廷文化のようなものがなかったため、とのこと。その代わりに素晴らしい音響の近代的なコンサートホールがあります。Philharmonie Luxembourg、正式にはSalle de concerts grande-duchesse Josephine-Charlotteといい、Kirchbergにあります。旧市街からなら車で数分です。2005年にオープンした円柱で囲まれた卵型の外見の中には、長方形の1,500人を収容できる大ホールと300人を収容する小ホールがあります、Orchestre Philharmonique du Luxembourg(OPL)が本拠地としています。
ルクセンブルクのクラシック音楽事情について、いくつかの特徴をご紹介しましょう。1つは、OPLの定期公演だけでなく世界中の名だたるオーケストラ、指揮者の演奏を聴くことができます。欧州のウィーンフィル、ゲバントハウス、ロイヤルコンセルトヘボウ、ロンドンフィル、米国からはニューヨークフィル、フィラデルフィア、クリーブランド、日本の都響も演奏しました。指揮者もシャイー、パッパーノ、メスト、2017年のニューイヤーコンサートの指揮者のドゥダメル、などなど。チケットは高い席で120~60ユーロ、後方の席なら35ユーロぐらいです。しかもプログラムの冊子は無料です。残響効果が優れそれほど大きくないホールですから最後方の席でも十分音の響きを楽しむことができます。
2つ目は、聴衆はルクセンブルクだけでなく、近隣のドイツ、フランス、ベルギーの常連さんであって、観光客はゼロと言ってもいいです。開演前にはワインを飲んだり、ホールで出会った知人と会話をしたり、幕間もロビーは賑やかです。服装は男性はほぼスーツ姿、週末でもネクタイをしていますが、さすがにタキシード姿は見かけません。常連の聴衆ですので、耳が肥えた人が多く、たとえ有名なオーケストラ&指揮者でも演奏が満足できる内容でなかったら、カーテンコールの拍手も早々に切り上げ帰ってしまいます。これが魅了する演奏ですと総立ちで拍手が止みません。
3つ目は、演奏の余韻を包み込んで自宅まで帰ることができることです。開演は20時、途中の幕間を挟むと大体22時10分頃に終演します。基本的にアンコールはありません。ホールには地下駐車場が隣接していますから、感動を開封せずに、電車の中の喧騒に邪魔されることもなく、車の中で演奏を思い出しながら20分後には自宅に到着しています。ちょっと満足できなかった演奏の時には車の中で耳直しをします。
2015-2016のシーズンは6月で終わりです。今シーズンからOPLの首席指揮者にグスターボ・ヒメノ氏が就任し、それまでとは違った演奏を聴かせてくれました。いつかOPLが日本で演奏することがあればいいですね。