「人」コラムールクセンブルクの横顔
特別篇(1): アーチスト スーモ(SUMO)さん
ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
グラフティ・アーチストとして世界で活躍しているSUMO(スーモ)さんは在日ルクセンブルク大使館の招聘で8月から2か月間、日本に滞在。彼の作品展「LOOK AT ME! こっちみて!」が9月15日から28日まで大使館で開催されます。(杉並区の遊工房アートスペースStudio 1でも9月21日から25日に開催)。日本の印象や今回の作品展についてSUMOさんにインタビューしてきました。
事務局(以下、Q):こんにちは、初めまして。今回が初来日と伺いましたが日本での日々はいかがですか?
SUMO(以下、S):初めまして、SUMOです。すごく楽しいです!エキサイティングで、まるでライブ・ビデオ・ゲームの世界に入り込んだような感じ。もうすぐ帰国しなければならないのが惜しくって。また、すぐ日本に来たいです。
Q:日本を気に入ってくださって嬉しいです。まずは自己紹介していただけますか?
S:はい、本名はクリスティアン・ピアソンと申します。アーチスト・ネームの「SUMO」は、もとをただすと僕のニックネームで、“スモウ・レスラー”の ”SUMO”(笑)。12歳くらいから皆にこう呼ばれていました。このあだ名、凄く気に入っているので、アーチストとしてもこう名乗っています。パスポートにもクレジットカードにも記載されている“正式”なアーチスト・ネームなのですよ。ロンドンの大学でグラフィックデザインとタイポグラフィを専攻しました。1995年の夏から本格的に絵を描くことを始めて、広告代理店に勤めた経験もありますが、その後は絵に専念しまして、2003年に初めて個展を開きました。
Q:以来、グラフィティ・アーチストとして大活躍されていますよね。今回の作品展は日本滞在中に制作したものですか?
S:そうです。僕は、あえて計画を立てずに、全く白紙の状態、真っ白なキャンバスのままで日本にやってきました。そうすると、僕が経験したことがそのまま僕の作品に反映されるからです。本やドキュメンタリー、それからロンドン時代の日本人の友達を通じて、日本に対する断片的な知識はありましたが、ビジュアルを通じて「見て」いたものが、実際にフルに体験できるのは凄い事です。まるごと日本に包まれることができた。作品は僕の東京での経験を表しています。僕にとって絵を描くことは日記をつけることと一緒なのです。だから今回の展示会で披露する作品は僕の「Journal of Tokyo」です。
Q:なるほど、東京での日々を描いた「日記」なのですね。作品のコンセプトについて教えてください。
S:「Time & Space (時間と空間)」が僕のアートワークのコンセプト。作品は僕が体験した時間と空間のすべてのドキュメントなのです。キャラクターや言葉やスローガンをいっぱい入れていますが、特定のメッセージを表している訳ではありません。時間を重ねるたびに絵を描き入れ、重ねていきます。時間のレイヤー(層)を作っているのです。ですから、すべての点、形、モチーフがある瞬間を表していて、そのパートを見ると、それを描いた瞬間がありありと思いだしますね。限られたスペースに思い出の写真を重ね合わせてコラージュを創る作業と同じです。そして、作品を通じて色々な方向に広がる空間のイメージを表しています。ズームアップやズームインすることで、目に見えてくるものが違うでしょう。例えば、地球は、宇宙の彼方からは点にしか見えない。このコースターを顕微鏡で見たら肉眼では見えない素材のディテールが見えてくる。限られたスペースの中で無限のスペースを描きたい。あるパートは凄く大きくして画いたり、反対に縮小したり。
Q:時間と空間の概念が「体験」のフィルターを通じてビジュアル化される。繰り返しになりますが、SUMOさんが東京で過ごした時間、そして東京という空間、そこで体験したことが全て作品に反映されている。
S:そうです。僕が体験した事、インスパイアされたこと、驚いたこと、僕の日記が僕の絵です。今回展示会のDMに使った作品、鼻をゆびさしているでしょう?日本人は「私?」と言う時に鼻を指さしますよね。驚きました。(胸のあたりを指さす)ヨーロッパとは違うから(笑)。それから、日本ではみんなが、自分に注意を引こう、目立とうと、躍起になっている感じを受けました。スーパー・ファッショナブルだったり、アニメキャラクターのようなコスチュームだったり。人だけではなくて道路標識とか広告看板とか、とにかく視覚的情報に溢れていて、それぞれが「LOOK AT ME! (こっちみて!)」と叫んでいる。「私?私?私?」とアピールして指が鼻を突き抜けるほど(笑)。だから展示会のタイトルは「LOOK AT ME! (こっちみて!)」にしました。
Q:もう少し、日本の印象をお話いただけますか?
S:日本に来る前から、日本は僕の作品と世界が近いなと感じていました。グラフィックやキャラクター・デザイン、ものすごく多くの情報。先ほどライブ・ビデオ・ゲームと言いましたけれど、ライブMTVとも言えますよね。僕、ティーンのころはMTVの大ファンだったのです。僕は色が好きで、色のエネルギーにとても惹かれます。東京は色が溢れています。
話はちょっと逸れますが、僕、日本のスーパーマーケットが大好きで、何時間でもいられます。棚に並んだ商品のパッケージを見て、もうワクワク。楽しい!日本は、スタイルは同じですけど、まったく違う文化だな、と思います。考え方も、行動様式も違う。ポップ・カルチャーもヨーロッパと違う。それから、Everything so organized, so discipline、すべてがとてもきちんとして秩序がある。きちんと列を作ったり、赤信号では横断しなかったり、沢山の人がいるのに静かですよね、ルクセンブルク、またはロンドンでは、もっと少人数でももっと騒がしいです。人との物理的なスペースの取り方にも感心しました。他者への気配りを感じます。あれだけ混雑している渋谷の交差点でも人がぶつからないのは驚異です(笑)。
Q:たしかに驚異的かもしれませんね(笑)。最後にSUMOさんからLIEFの読者に向けてメッセージをお願いします。
S:僕の作品で、ポジティブでファニーなバイブレーションを感じてくれたら嬉しいです。ポジティブなものをみるとハッピーになりますから。僕は、自分がハッピーだと周りの人もハッピーにできると信じています。展示会に足を運んでPositive moment of Pleasure(楽しい瞬間)を共有していただきたいと思います。
Q:SUMOさん、お忙しい中、今日は本当にありがとうございました。
S:こちらこそ、ありがとうございました。
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カラフルでポップな作品から、やんちゃで過激なアーチストの登場を予測していたら、SUMOさんは非常に穏やかでユーモアとウィットに富んだ好青年でした。絵を描くことで“Making music for the eyes(目への音楽を創る)”というSUMOさん。ポジティブなエネルギーとエキサイトメントに溢れた彼の展示会、皆様、是非お越しいただいてハッピーな気分を共有してください。 (文責:事務局)