ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回も、2019年9月から2020年3月までルクセンブルク大学の交換留学生としてルクセンブルクに滞在した川又康平さん(Mr.Kohei Kawamata)からルクセンブルクでの生活を中心にお話を伺っていきます。
事務局(以下、Q):川又さんはルクセンブルクでお生まれになったので「初めてのルクセンブルク」ではありませんけれど、子供と大人の感覚はかなり違うと思うので、13年ぶりのルクセンブルク生活について、特に大学の授業について教えていただけますか?
川又:(以下、K):はい。
Q:ルクセンブルク大でEuropean CultureのEnglish Studiesを専攻されたとのことですが、芸術や言語学の他にポエム(詩)の授業もお取りになったのですよね。
K:そうです。ポエムの授業は面白かったです。
Q:面白い!?確かにポエムは素敵な文芸形態ですけれど、韻を踏むとか、音の響きに対しての感性とか、ものすごく高度な言語能力が要求されると思いますけれど・・・。
K:そうかもしれませんけれど。正解はないので。
Q:ああ、それはそうですね。ポエムはどんな授業なのですか?
K:少人数のクラスで、読んだときに受けるイメージを議論したりしました。
Q:クラスメートは何人?
K:10名です。ルクセンブルク人、イギリス人、それから日本人。
Q:日本人は川又さんだけ?
K:いえ、僕を含めて3名でした。
Q:議論をしながら授業を進めるという方法は日本の大学ではあまり例がないと思いますが、苦労はありませんでしたか?
K:そうですね、頭の中で思い描くように言葉にするという行為は、正直難しかったです。でも、とても良い体験でした。
Q:その他に面白かった授業はありますか?
K:英文法の授業ですね。ギャップが面白くて。
Q:ギャップ?
K:はい。日本の高校の英語の授業は文法中心なので日本人の学生にとっては馴染みがありますけれど、ネイティブの人たちは日常生活で特に文法を意識せずに使っていますよね。形容詞と副詞の違いといったことも、ネイティブが一瞬、考えこんだりして(笑)。そのギャップが面白かったです。
Q:ああ、私たちも文法を意識しないで日本語をつかっていますものね。川又さんは本当に言葉が好きなのですね。
K:そうかもしれません。言葉は人間にとってとても大切なものだと思っています。言葉や音声に対してこだわりが強いかもしれませんね。上智では第二外国語で中国語を学んでいるのですが、中国語の四声の発音は中国人の留学生に聴いてもらって何度も反復練習したりしています。できれば将来、言語を使った仕事をして文章に触れていたいです。
Q:言語学者さんとか?
K:まだ漠然としているのですが、文芸翻訳とか、出版の仕事に就けたら良いなと思っています。
Q:作家とかいかがですか?川又さんのブログ、「ルクセンブルク滞在記 (What I found in Luxembourg) http://koheikawamatainlux.com/」読ませていただきましたが、とても面白かったです。
K:ありがとうございます。書く仕事も魅力的ですね。ブログではルクセンブルクからの帰国便でまさかのトランジット拒否に遭遇したことも書きました。 あれこれ思いつくままに書いていて、自分の中の備忘録の意味合いもあります。
Q:なるほど。話は変わりますが、ルクセンブルク滞在中は寮に住んでいらした?
K:いえ。上智大学でドイツ語を教えておられたオロリッシュ枢機卿のお宅の一部屋をお借りしていました。
Q: ということは下宿ですか?
K: 食事は自炊でした。オロリッシュ先生のお宅には僕の他にもルクセンブルク人の学生が一人部屋を借りていて、あと色々なお客様が滞在されていましたね。
Q: そうなのですか。キャンパスからの距離は?
K: 電車で1時間ほどかかりました。 先生のお宅はCityの真ん中にあり、ベルバル(Belval)キャンパスはルクセンブルクの南端でしたので。
Q:かなり遠いですね。
K: そうかもしれません、でも、通学時間よりも日常生活での細々としたことはこんなに時間が取られてしまうことにびっくりしました。
Q:日常生活ですか?
K: はい。実は一人暮らしは初めてだったのです。掃除や買い物、料理。こんなに時間がかかるものなのだ、と(笑)。
Q: ああ、どこで暮らすかというより、どう暮らすか、が・・・。
K:はい。正直、ルクセンブルクに暮らしてカルチャーショックということは特に感じませんでしたけれど、一人で生活するということが初めてのことが多くて。
Q:うん、わかります。私も親元を離れた時に初めて、放っておくと部屋はきたないままなのだ、ということを学びました(笑)
K:その意味でも留学して良かったです。(笑)
Q:日本との違いを感じることはありませんでしたか?
K:使用言語の違いでしょうか。ルクセンブルクの人達は、ほとんどの方が複数の言語を話せるので、相手が何語を話すのかを気にしながら会話をして、途中で言語を切り替えることもごく普通でした。ここに日本との違いを感じました。
Q:日本は基本的にはモノカルチャー、モノリンガルですものね。最後の質問ですが川又さんにとってルクセンブルクはどんな国なのでしょう?
K:そうですね…。大国に挟まれた小国で、経済力があって、清潔感があって。でも、田舎です。家屋の壁がカラフルに塗られていたり、昔ながらの建物が残っていたり。建物のすぐ側に森があって、川が流れていて。とても美しい所です。新市街のほうはモダンなビルがたくさんありますけれど、総じてのんびりとしていて、精神的に安心できます。
Q: そう!森が近いですよね。ハイキングにもってこいの場所。
K:北の方に森がたくさんある場所があって、滞在中に行きたかったのですが、温かくなってから行こうと思っていたら・・・
Q: (コロナ禍で)帰国が早まってしまった。
K:その通りです。インターナショナル時代の友達にも会えずじまいで帰国しなければならなくて。
Q: ああ、それは残念でしたね。ということは、ルクセンブルク滞在中にあまり出かけることはなかった?
K: ヴィアンデン城やモーゼル川付近のワイン産地には出かけました。後は大学の友人と近所のバーで飲んだりはしましたけれど。
Q: では、近い将来再訪しなければなりませんね。(笑)
K: そうですね。ルクセンブルク国内も色々訪ねてみたい場所が残っていますし、ヨーロッパを回るなら、旅行の拠点として最高の場所です。空港も市内から近いし、ヨーロッパ全域へのアクセスが抜群ですから。スペインの温かいビーチにも、スカンジナビア方面にも気軽に行けます。
Q:是非、再訪して、新たな経験や発見をまたブログに書いてください。
K:はい、そうしたいです。
Q:今日はありがとうございました。
K:こちらこそ、ありがとうございました。
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ルクセンブルク大での英文法の授業が面白かったと語る川又さんから言葉に対する興味と情熱をしっかり感じました。個人的な感想ですが、ルクセンブルクでの幼少期のマルチリンガル体験が今の川又さんの嗜好に影響しているかもしれません。これから先、言語にかかわるお仕事にどう進んでいかれるのか、とても楽しみです。 (文責:事務局)