ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回は、ルクセンブルク発のエナジードリンク「28 BLACK(トウェンティエイト ブラック)」の輸入販売を行っているサイレントエナジー株式会社の高田広太郎さんにご登場いただきます。ふとしたキッカケから今まで全く縁のなかった飲料業界(そしてルクセンブルク)に深くかかわるようになった高田さん。取り扱っている商品も高田さんご本人も非常にユニーク。「元気のでる」お話の数々を伺いました。
事務局(以下、Q):こんにちは、お忙しい中、お時間をいただいてありがとうございます。
高田(以下、T):こんにちは。こちらこそ、お声がけいただいてありがとうございます。今日はよろしくお願いします。
Q:まずは自己紹介をお願いします。
T:はい。サイレントエナジー株式会社の高田広太郎です。ルクセンブルク発のエナジードリンク「28 BLACK(トウェンティエイト ブラック)」の輸入販売をしております。
Q:あ、商品名は「静かなるエナジィ」ではなくて、「28 BLACK」なのですね。私はてっきり「静かなるエナジィ」かと…。
T:エナジードリンクのお好きな方の間では「ニッパチ」とも呼ばれています(笑)。「静かなるエナジィ」は日本でのブランディング、まあ、製品コンセプトですね。主張しすぎないけれど、確かにそこにある。他社さんの製品はここ一番の時の瞬発力、ひらたく言うと「今をどうあげるか」にフォーカスされていますけれど、エネルギーが必要なのはそこだけではない、と僕は思っています。静かに長く、持続しつづけることが大切だ、と。
Q:なるほど。コンセプト自体が他社さんとは明確に違うのですね。
T:パッケージのアイコンである鳥は、カリドリス(Calidris)という渡り鳥ですが、5000kmを飛び続けるのです。そもそも僕がこの仕事を始めたキッカケはパッケージのカッコよさに惹かれたことからなのです。
Q:たしかに、ギラギラしていない、クールなデザインですが、味ではなく、見た目から?そもそものキッカケをもう少し教えていただけますか?
T:友人にTetsu-law君というクリエーターがおりまして、彼は、スピリチュアルでイケてる動画を作るビジュアライザーなのですが、彼が「この間、撮影でイギリスに行ったのだけど、駅のキオスクでめちゃくちゃカッコイイデザインのドリンクを見つけたよ。すごく気になってさ、最終日にその駅までわざわざ行って買ってみた。で、飲んでみたら美味しかった」と自慢して、空き缶を見せてくれたのです(笑)。2013年のことでした。当時のパッケージは今より鳥が小さいバージョンだったのですが、たしかにカッコイイ。僕は特にエナジードリンクが好きというわけではなかったのですが、このクール缶の中身はどんな味なんだろう?ちょっと飲んでみたいな、と思いました。
Q:外観のアピールが中身への興味につながった?
T:そうです。ネットで調べてみたら、ルクセンブルクの会社の製品だとわかって、どこで買えるのか問い合わせたところ、返事が来まして、「日本では発売していないので、シンガポールかオーストラリアで買ってください」と(笑)。えー、ドリンク1本のために海を渡れと言うのか?と、一瞬ひきましたが、たまたまシンガポールに仕事で行く機会がありましたので、じゃあ、シンガポールに行った時に買ってみようと。
Q:それで?
T:シンガポールのセブンイレブンに売っているということだったのですが、見つからない。 確かにあるはずだから、と店員さんにも一緒に探してもらって漸く見つけました。で、めでたく購入して、飲みました。それで、このドリンクをすごく気に入ってしまったのです。だって、ここまで売る気のないドリンク、珍しいじゃないですか。
Q:たしかに(笑)。
T:立ち振る舞いがなんか好ましいな、と。そして「今をどう上げるか」で勝負していないコンセプトも。これは、エナジードリンクの隙間だな、と思いました。それで再度、ルクセンブルクにメールしました。「何故、日本で売らないの?」と。2014年の初頭です。当時、エナジードリンク市場は300億規模、しかも倍々ゲームで伸びているイケイケ状態だったのですよ。それでちょっとした参考資料も作って添付しました。そうしたら、向こうから「スカイプで話そう」と。それで、スカイプで話しはじめてから5分でこのドリンクの輸入を請け負うことになりました。
Q:え!? その急展開、早すぎませんか?
T:彼らはもちろん、市場のデータは良く知っていました。でも、日本と中国はディストリビューション(販路)に入れていないと。日本は複雑すぎる、Too complicatedだと。日本市場に対してはポジティブな反応でしたが、彼ら曰く、「やるリソースがない」。なので「僕に独占輸入販売権をくれるなら、僕がやるよ」と言ったら「じゃあ、頼むよ」となりまして。
Q:高田さんは食品関係のお仕事をされていたのですか?
T:いいえ。まったく(笑)。日本企業のグローバル展開を手伝っていました。スタートアップのインキュベーションの会社を先輩と一緒に立ち上げて。
Q:あ、コンサルですね。ということは、在庫を抱えるご商売の経験は…。
T:まったくありませんでした(笑)。
Q:なんと、まあ…。すごいチャレンジャーですね!取引先の会社のこともほとんど知らないわけでしょう?
T:まあ、そうです。スカイプでの打ち合わせの後でルクセンブルクに飛びました。相手先はSplendid Drinks AG、当時はCALIDRIS 28 AGという社名でしたが、しっかりした会社という印象でした。エナジードリンクの他にも、カクテル用の割り物などを取り扱っている飲料系のマーケティング会社で、オフィスは、近いルクセンブルク国内でドイツの国境沿いにありまして、工場はドイツ側でした。それで2014年の夏にサイレントエナジー株式会社を立ち上げて、輸入を始めました。
Q:あっさりおっしゃいますが、食品や飲料の輸入は非常に難しいですよね?
T:はい。正直、大変でした。食品衛生法を管理している厚生労働省と、税関のある財務省との間をいったりきたり(笑)。らちが明かなくて、「初めての輸入相談窓口」という相談できる機関をやっと見つけて。そうしたら、そこの担当の方は「素人が手を出すものではない。食品の輸入は非常に難しい。まして食品添加物がいっぱい入っているエナジードリンクとは無謀すぎる」と真顔で止められました(笑)。
Q:そりゃあ、そうですよ、通常は(笑)。
T:でも、なんとかなるだろうと。まあ、相変わらずいったりきたりが続いて、書類を出しても、出してもNGくらって、「こいつら…。本当に役所仕事だ…。」と思ったことも正直ありました。敵対関係というか(笑)。でも、ある時、自分の態度を変えてみたのです。向こうの立場で書類を作り直してみようと、そうしたら、何をやってもNGだったのが、「こういう風に書いてくれると通しやすい」と本当に色々と教えてくれるようになりました。彼らは別に意地悪をしているわけではなくて、水際の守り人なのだ、と痛感しましたね。
Q:ああ、それは良く分かります。ルールというか、形式に即していないと通せないです。内心、どんなに応援したいと思っていても、きちんと手順を踏まないとアウトですよね。
T:そうですね。で、やっと輸入できる運びになりました。まあ、その後もプロの目からみると本当にとんでもないことをやらかしてしまったのですが…(笑)
Q:とんでもないことはまだ続くのですか?
T:はい、もちろんです!(以下、次号)
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デザインに惹かれたという理由で、輸入も飲食もまったくド素人なのに、ルクセンブルク発のエナジードリンクの輸入販売という、外見からするとメチャクチャ無謀なチャレンジを始められた高田さん。ですが、お話のあちこちに一連の行動は高田さんならではの分析と戦略、そして「なんとかなるだろう」精神に基づいたものであると感じ入りました。次回は輸入開始時期の冒険譚(別名ドタバタ)と現在の状況、そして将来への展望を中心にお話を伺いたいと思います。 (文責:事務局)