ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回も、ルクセンブルク大学に交換留学生として約半年間在学し、今年3月に帰国された小原ゆゆさん(Ms.Yuyu Obara)のお話を伺っていきます。
事務局(以下、Q):ルクセンブルクで暮らす中で公共交通機関の遅延や郵便物が届かないといったこと以外に何か困ったことはありましたか?食生活はいかがでした?
小原(以下、O):大丈夫でした。基本は自炊だったので、「ルクセンブルク料理」をあまり口にする機会がなかったのが残念ですが。もう少し堪能したかったです(笑)。
Q:ああ、普段、ルクセンブルク料理には中々ありつけない(笑)。ルクセンブルク料理専門のレストランはかなり少ないし。個人のお宅にお呼ばれした時かなぁ。
O:そうですね。 あとはクリスマスマーケットの屋台かしら。留学する前は、ルクセンブルクは物価が高いだろうと想像していたのですが、外食しなければ日本と変わらないな、と思いました。
Q:寮で自炊していたの?
O:はい。キッチンとダイニングスペースが共有、バス・トイレは個別です。
Q:何人でシェアしていたのですか?
O:私を入れて3人です。フラットごとにシェアするシステムで、実は寮の建物自体には日本人が4人いたのですが私とは別のフラットでした。フラットごとにキャラクターが違うようで、フラット内の付き合いと課題に割く時間の調整が大変だという声も他の日本人留学生から聞いたことがあります。
Q:小原さんのフラットはそんなにパーティ好きでは無かった?
O:それほど頻繁ではなかったので、勉強時間の捻出に苦労することはありませんでした。住む寮は大学側が割り振るのですが、住宅街の中にあって、住環境は快適でした。近くにスーパーマーケットもありましたし。
Q:ああ、それは重要なポイントですね。
O:はい。スーパーに行くのも楽しかったです。有機食品のコーナーがあったり、系列ごとに品揃えが微妙に違っていたり。
Q:系列?
O:ベルギー系、ドイツ系、フランス系のスーパーがありました。スーバーでお米も買えました。
Q:日本米が売っていたの?
O:タイ米が多かったです。日本米を取り扱っていたのはフランス系のスーパーですね。
Q:面白い!フランスには日本文化がそれだけ浸透しているのかしらね。小原さんのお話を伺っていると、非常に忙しい毎日だったのだろうと思うのですが、留学中に観光したりできたのですか?
O:実は、週末はほぼ、他国に行っていました。
Q: ええ?
O: ルクセンブルクでは秋頃は少し悲しい気分になってしまいまして。ミスト状の雨が降るし、日照時間も少ないし・・・。それで天気の良い場所を求めて(笑)。
Q:どこに?
O:ハンガリーとか。空いている日があれば国外へ行っていました。バックパック1つで。20都市は訪ねたと思います。
Q:それはすごい。一人旅?
O:そうです。夜行便や夜行バスを活用しての弾丸エコノミー旅行です(笑)。フリックスバス(FlixBus)を良く使いました。10ユーロ程で国外への片道チケットが入手できるのです。
Q:ルクセンブルク国内へは?
O:ヴィアンデンとクレルボーに行きました。実は、ルクセンブルク内の各地へは温かくなってから訪れようと計画していたのですが・・・。
Q:ああ、帰国が(コロナ禍で)早まってしまったので、行きそびれた。
O:そうなのです。本当に残念です。
Q:そして、帰国時にも大変なことが?
O:はい。3月に帰国する際にイスタンブール経由のチケットで出発したのですが、ルクセンブルクに送り返されまして。
Q:ええ?どういうことなの?
O:ルクセンブルクからイスタンブールに着いたのですが、まさかのトランジット拒否で。飛行機の中で長時間待たされて、最終的には次の朝まで空港で夜を明かして、ルクセンブルク行の便で戻されました。
Q:なんと!それは・・・。不安だったでしょう?
O:私ひとりではなかったので、何とか持ちこたえました。ルクセンブルクの日本大使館に連絡を入れたところ、ルクセンブルク空港に着いたときに大使館の方が出迎えてくださって、差し入れもしていただきました。本当にありがたかったです。空港は店が閉まっているため食べ物や飲み物が入手できませんでしたから。
Q:うああ、なんという経験!私なら絶対泣いている・・・。で?
O:すぐにパリ経由のチケットを買って、日本に戻りました。公共交通機関は使えないので家族に空港まで迎えに来てもらって。
Q:PCRも受けた?
O: いえ、私が帰国した2日後から必須になったのですが、帰国当時は実施されていませんでした。車で空港から自宅まで直帰して、2週間の自己隔離です。
Q:大変でしたね。
O:ルクセンブルクに留学していて良かった、と思いました。
Q:ん?どういう意味ですか?
O:ルクセンブルクは大使館も日本人コミュニティも細やかで、本当に手厚いケアをしていただけました。他国では、たぶん規模も違うので、一介の留学生にここまで親身になってもらえなかっただろうと。ルクセンブルクは小さな国で様々な機会に出会えました、日本人のコミュニティも密でとてもネットワークが強固です。色々な方にとても仲良くしていただけました。
Q:ああ、なるほど。ルクセンブルクの国や国民性に関してはいかがですか?
O:国民性は日本人に似ていると思います。ルクセンブルクの人達は、スーパーフレンドリーなアメリカ人とは違って、初対面の人達とすぐに仲良はならないのですけれど、一旦仲良くなると本当に親密な付き合いが始まります。国はコンパクトで、田舎すぎず、とても暮らしやすかったです。要人との距離も近いことにもびっくりしました。学生フェアのお手伝いをした時にベッテル首相とお話する機会がありました。友人は近所のスーバーで首相をお見かけしたと言っていました。半面、一概に語ることができない複雑性も感じました。典型的なヨーロッパと同じではないというか、フランスやドイツは昔ながらの文化がありますがルクセンブルクは歴史的な変遷のせいかコアな文化が見つけにくいと思います。言語も表面上はドイツ語とフランス語とルクセンブルク語の3つの公用語ですけれど、実はフランス語は苦手というルクセンブルク人もいらっしゃるし。
Q:半年の生活でルクセンブルクの色々な側面に触れられたのですね。今後の展望については以下がお考えですか?
O:まだ希望段階でのですが、企業や社会のサステナビリティへの取り組みをお手伝いする業務に就きたいなと考えています。企業が社会的責任を果たしているためのビジネスモデルをいかにサステナブルなものに変えていけるのかをコンサルティングする仕事に携わりたいです。
Q:それは素晴らしいですね。最後にLIEFの読者の方へメッセージをいただけますか?
O:ルクセンブルクはメジャーな国でないからこその素晴らしい魅力と利点があります。機会に恵まれた面白い国ですので、是非、皆さんにお越しいただいて実際に体幹していただきたいです。
Q:今日は長時間ありがとうございました。
O:こちらこそ、ありがとうございました。
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コロナの影響で当初の予定が大きく変わりながらも、滞在時、そして帰国時の経験と行動をしっかりと把握・分析してご自身の中にしっかりと蓄えた小原さん。ルクセンブルクの歴史と複雑性を理解することは非常に難しいこととは思いますが、知りたいとの志がカルチャーに橋をかけることに繋がるとおもいます。これから小原さんが社会のスキームにサステナブルな未来への橋をかけられることを楽しみにしています。 (文責:事務局)