sightseeing

孤独のグルマン  第一話 東京都中央区日本橋浜町のルクセンブルクの肉まん他

孤独のグルマン  第一話 東京都中央区日本橋浜町のルクセンブルクの肉まん他

今日は打ち合わせがすっかり長引いて昼ごはんを食べそこなってしまった。
ふう、お腹が減った・・・・
すぐにでも何か食べたい。

日本橋浜町か。。
俺はまたいつものように道に迷ってしまったらしい。

パリの文房具屋かな?
この辺りも清澄白河に負けず劣らず、新しい店がどんどん進出しているらしい。東京はどんどん変わっていく。
俺はどこに向かっているんだ。
焦るんじゃない。思い切って水天宮前まで引き返すか。

おや、こんなところに感じのいいカフェがある。「ルクセンブルクカフェ・リターンズ」?
ルクセンブルクか。懐かしいな。パリからTGVで二時間で行ける、人口当たりのミシュラン星の数が世界1位の美食の国。昔家族でよく訪れたな。カフェにも食べるものはあるだろうか?

ルクセンブルク限定メニューか。ルクセンブルクの郷土料理とは珍しい。ここにしてみるか。
このRETURNSの文字、フォントはFUTURA Boldだ。カフェの雰囲気と合っている。そしてルクセンブルクの国旗の色が綺麗だ。澄み渡った空色とでもいうのかな、ブルーが綺麗だ。PANTONEは299cあたりだろう。よし、ここにしよう。

店員『いらっしゃいませ』

うん、何か良さそうだ。
カウンターで最初にオーダーするスタイルのカフェだな。

さて、何を食べよう。

ルクセンブルクのミシュランシェフ、ファバロ氏監修の特別メニュー「シェフ特製 子牛と鶏とキノコのパシュテイト」
いかにも美味しそうな響きだ。しかも安い。

他には、パテ・オ・リースリング!?
思い出した。ルクセンブルクで食べた所謂“肉まん“だ。現地では丸ごと食べたが、
こうやって薄く切って食べるのか。
うん!これだ。ヨーロッパと肉まん、ミスマッチな感じがいいじゃないか。

店員「お決まりでしょうか?」
自分「はい、えーっと、パテオリースリングをお願いします。」
店員「はい。お飲み物はいかがなさいますか?」

え、飲み物?

自分「えっと、、水でいいです。メニューもう少し見ていいですか?」

食べる事しか頭がなかったので水でいいと答えたものの、どんな飲み物があるか気になるな。

大公宮御用達パティスリーナミュールのホットチョコレート。日本ではフランスやベルギーのチョコレートが知られているが、ルクセンブルクも隠れたスイーツ大国だったな。ナミュールも日本で航空会社のラウンジや高級車のショールームで提供されていると聞いた事がある。デザート代わりにいいかも。
他には、ルクセンブルクのワインか。ルクセンブルクはローマ時代から続くワインの伝統産地。スパークリングワインと白ワインが3種類もある。選択肢が多いのは嬉しい限りだ。
ん、ルクセンブルクの再南端の町シェンゲンのドメーヌ・アンリ・ルパートのリヴァネールも置いてある。リヴァネールといえば、確かアンリ・ルパートで飲んで感動した白ブドウジュースもリヴァネール100%だった。濃密な蜂蜜のような甘さとスッキリしたフルーティーなのど越しのバランスが絶品のジュース。そのリヴァネールのワインか。飲んでみたい。しかもグラス756円とは破格だ。レストランではこの倍の金額してもおかしくない。そうか、期間限定だし、きっと利益は度外視しているんだな。まだ明るいので飲まないつもりだったけれど、そうとなれば方針変更だ。もう仕事は切り上げよう。まずは喉の渇きを癒すべく、クレマン(スパークリングワイン)だ。それからリヴァネールを攻めよう。

自分「すいません。クレマンも一ついいですか?」
店員「はーい」

店内はランチ時ではないので、空いている。
この辺りに住んでいる人達だろうか。
これはルクセンブルクのものを集めたワゴンだな。

ん?これはサンタクロースじゃない。ルクセンブルクで12月6日に学校も一斉に休みとなる、サンタクロースの原型ともいわれる聖二コラだ。

確か6世紀くらいにトルコのミラの町の司教様が貧しい子供達を救って、聖二コラの伝説になったと聞いた。ルクセンブルクの子供たちにとってはサンタクロースより聖二コラ。枝を持っていた黒い従者がいつも無表情で不気味で、子供たちが怖がっていたな。

懐かしい。

これは、1996年に東京で開催されたエドワードスタイケン(ルクセンブルクをルーツに持ちアメリカに移住した両親の間に生まれた。MoMAの写真部門初代ディレクターに就任。)の「ビターイヤーズ」写真展の時のカタログだな。アメリカの大恐慌の辛い時代を生き抜く無名の人々を記録した貴重な写真展を、敢えて好景気に沸く1962年のアメリカのMoMAで企画したスタイケン。ルクセンブルクの人らしく気骨の人だったに違いない。今こういう写真はとても新鮮だ。確か「ビターイヤーズ」とスタイケンの手掛けた最も有名な「ファミリー・オブ・マン」の写真展はルクセンブルクで常設展が見られるはずだ。
いつかまとめて観に行きたいな。

これは、、アニメ「多田君は恋をしない」(通称:多田恋) の舞台探訪マップ。『月刊少女野崎くん』制作チームが手掛けた正統派ラブコメとして面白いと、Kさんが言っていたな。ルクセンブルクが舞台になったのか。ヨーロッパの聖地巡礼マップとは、ファンにとってはたまらないだろうな。

店員「お待たせしました。」

お、きたきた。

パテオリースリング、非常に美味しそうだな。紫キャベツの酢漬け(?)も美味しそうだ。
まずはクレマンから。

ゴクゴク。
上品な泡。いつも泡を飲む前は厳粛な気持ちになる。自由で、誰にも邪魔されず、救われる瞬間。
フレッシュで美味しい。朝から今まで何も食べられなかった苦労が報われた。
よし懐かしの肉まん(パテ・オ・リースリング)だ。
リースリングのジュレが控えめながらいいアクセントになっている。
「うん、旨い」
フォークとナイフで食べる肉まん、いいじゃないか。
モグモグ。
「うん、うまい。」
クレマンとの相性は最高だ。

ゴクゴクゴクゴク。
はー、喉が渇いていたのであっという間に飲み干してしまった。
空腹時にこのペースは危険だが、、、貴重な機会に代わりはない。
よし、次はリヴァネールだ。
「すいませーん、リヴァネールもいいですか?」
パテオリースリングがあまりに美味しいので、もう一つ別の物も食べてみたいな。

ルクセンブルクソーセージのホットドックか。
たまにはこういうシンプルな食事も新鮮だ。これにしよう。
「あとホットドックもお願いします。」

ルクセンブルクの写真が店内に飾ってある。
インスタで19万人のフォロワーがいる保井崇志さん撮影。
独特のトーンが素晴らしい。ヨーロッパ独特の光のコントラスト。

おや、このカフェは本も売っているのか。伊丹十三、都築響一、荒俣宏、、、この一角だけでも大好きな書き手ばかりだ。

店員「お待たせしました。」

野菜の付け合わせはさっきと同じ。
モグモグ。ソーセージはスパイスが程よく効いている。レモングラス?クミンも入っている。
これはルクセンブルク名物のチューリンガーソーセージに違いない。屋台でも必ず売っていた定番。

さてアンリ・ルパートのリヴァネールワイン。まずは香りから。ジュルジュルジュル。(ソムリエ風に口の中で音を立てて香りを確かめるのが癖になってしまった。)色もクリアだ。

ゴクゴク。ジュースとは当然違う味だが、ワインもフレッシュ&フルーティーで飲みやすい。
ゴクゴク。スパイスの混ざり合ったホットドックに、爽やかなリヴァネールがとても合う。

モグモグ。
ムシャムシャ。
ゴクゴク。

もう暗くなってきた。間接照明とセンスの良い音楽がとても居心地がいい。
なんだか暖かくていい店じゃないか。
ふう、うまかった・・・

店員「食後にお飲み物はいかがですか?」

自分「そうですね、ナミュールのショコラショー(ホットチョコレート)をお願いします。」

可愛いキャンディーボックス。「ビレロイ&ボッホ」。
かつてハプスブルク家御用達の華麗なる歴史を持つ、ドイツの陶磁器メーカーだ。
昔はルクセンブルクに工場があったと聞いているが、今は限られた製品だけがルクセンブルクで作られているはずだ。これはMade In Luxembourgの昔のもの?

店員「お待たせしました。」

カップにもルクセンブルクの国旗カラー。ビレロイとはまた一味違ったポップなデザイン。

ズズ―。

生クリームでごまかしてない、どこまでもピュアなショコラショー。すごく美味しい。。これだけでも足を運んだ価値がある。

ふう、お腹一杯だ。

自分「ご馳走様でした。」
俺は少しふらつきながら店を出る。少し酔ったらしい。そしてお腹もはち切れそうだ。

東京日本橋浜町。表通りから少し入った思わぬ場所でルクセンブルクと出会ってしまった。
カフェは11月22日まで限定オープン。11月21日(水)には、ルクセンブルク情報交流フォーラムが有料で旅のトークイベントも開催するらしい。

イベントでは色々な食べ物を食べられて、ちょっとしたお土産もあるらしい。さっきのルクセンブルクカラーのカップ&ソーサーなどがじゃんけん大会でもらえたりすると嬉しいな。

モダンと下町人情が交差するこの場所は、どこかルクセンブルクとのつながりを感じさせてくれる。墨田川でも少し散歩するか。