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「人」コラム ‐ ルクセンブルクの横顔  第34回:高田広太郎さん (Mr. Kotaro Takada) ― 後編

ある国を語る時、歴史や文化、生活風習に加え、その国の人々は欠かせないファクターでしょう。人との交流は、国の印象にも大きく左右しますし、人を知ることで、その国への理解も一層深まります。このコラムは日本とルクセンブルク、双方につながりの深い方々を順次ご紹介していきます。
今回も、ルクセンブルク発のエナジードリンク「28 BLACK(トウェンティエイト ブラック)」の輸入販売を行っているサイレントエナジー株式会社の高田広太郎さんのお話を伺っていきます。食品輸入は全くの素人ながら、パッケージのカッコよさにひかれて大胆にもルクセンブルク発のエナジードリンクの輸入を始めた高田さん。無事、製品が日本に到着したところからのエピソード、どうぞお楽しみください。

事務局(以下、Q):商品が無事、港に着いて、めでたし、めでたし…には?
高田(以下、T):当然、なりませんでした(笑)。むしろ狂想曲の幕開けでしたね。

Q:とんでもないことをやらかした?
T:はい。最初は、コンテナ1つまるごと!っていう事業でもなく、最初は2トン、350ケースから始めたわけです。ただ僕ら、どうやって荷物の受け渡しが行われるかすら、想像できてなくて…。
普通、パレットに乗った商品をそのままフォークリフトで「はい、どうぞ」って渡されるんですよね。倉庫側の作業はあっという間に終わり、次の倉庫に運ぶトラックの運転手さんも乗せてもらったらすぐに発車できる。降ろす時もフォークで引き出してあっという間に終わり。そんな当たり前の世界に、うっかりバンで行ってしまったんですよね。
Q:えええ?!バン?ということは?
T:フォークリフトで乗せられませんよね、屋根があって(苦笑)。保税倉庫のオジサンからも、「お前らさ、フォークじゃ入れられねぇよ…どうすんの?」と。怒りを通り越して、呆れ果ててらっしゃる感じで…。当時、一緒に始めた5人で汗だくになって手で運びました。
Q:350ケースを?
T:はい。保税倉庫さんにもご迷惑をおかけしたのですが、端の方にパレットを置いてもらって。1ケース24本入りで、重さにすると1ケースが大体6㎏ちょっとかな。350ケース、合計2トン超の重量物を手で運ぶ…フォークリフトが発明される前の輸出入…それこそ、大航海(後悔)時代ですね。
Q:あらら、確かに波乱の幕開けですね。心が折れませんでしたか?
T:あー、やっちまった!とはおもいましたが、へこみはしませんでしたね。本当に大変だったのは、当時借りた小さな倉庫が地下一階で…(笑)エレベーターもなかったので、一度バンに積んだエナジィを、再び手で運ぶわけですよ。輸入が完了したタイミングでは、達成感よりも、半端ない疲労感だけが残りました。
あ、いや、他にも得られたものがありましたね。2トンの重量物だって、手で運べる。積み上げていけば、普段の生活じゃ想像もつかないようなことができるんだなって。人間、想像してないだけで、やるって決めたら意外にやれることって多いんです(笑)
Q:そのポジティブなメンタリティはどこからくるのかしら?差支えなければ高田さんの経歴を教えていただけますか?
T:僕は愛知県の、周りはすっかり田んぼに囲まれた片田舎出身です。高校まで地元にいて、大学で上京してきて一人暮らし、親父がエンジニアだった影響を受けて機械工学科に入りました。
Q:機械工学ですか?
T:はい。人型ロボットの研究で有名な大学で、卒修論のテーマは、研究室に代々伝わるロボットにどうしたら「心」が芽生えるか、でした。別の言い方をすると、どうしたら「心」をエンジニアリングできるのか、という。機械工学科なんですが、研究室に入ってからは、ひたすら認知科学の勉強、勉強、勉強です。生物の内分泌系や脳神経系の仕組みや進化生物学、哲学とかにとにかく触れる。「心」とは何かをひたすら考えつづけた研究室生活でしたね。
Q:大学では研究三昧?
T:他の活動もしましたよ。大学1年から3年までは「鳥人間コンテスト」のヒコーキ作りにも没頭しましたし。ただ、「心」について一生懸命考えたおかげで自分の生き方が見えてきましたね。学ぶのが楽しくて研究にならなくって。危うく卒業し損ねるところでして(笑)これは研究者やエンジニア向きではないな、と。それで大学院を卒業後、野村総合研究所に入社して経営コンサルタントという、エンジニアとは全く毛色の異なる職種になりました。好きなだけ働けばいい会社でしたので、あんまり働いてなかった月もあれば、月200時間超えで働いていた時期もありました。
Q:ハードですね。
T:時間には追われましたけれど、仕事は楽しかったですよ。前にお話したスタートアップのインキュベーションの会社を一緒に立ち上げた先輩は野村総研時代の先輩です。そうそう、大学院時代にニュージーランドに遊びにいった時にバンジージャンプにトライしたのですが、バンジーの後でアドレナリンがバーッと出てくるのが自分で分かりました。以来、何でもやってみる、いや、何でもできる、という気になっていまして(笑)、このあたりが僕のメンタルを形作っていると思いますね。
Q:心が折れるどころか、反対に楽しんでしまう…。突発事項への対処以外でもそうですか?
T:たぶん、そうでしょうね、創業以来、ラベルは手貼りなのですが、単調な作業をイベント化してみんなで楽しんでいます。
Q:手貼り!なんと労働集約型というか・・・ものすごい数ですよね?
T:初回の400ケース、約10,000本から、現在の1回の輸入量は80,000本になりました。缶に印刷するほうがリーズナブルだと、製造元のSplendid Drinks AGからも言われてはいますが、等身大で静かにシールを貼り続けるというのは、なかなか熱いですよ。幸い、エナジードリンクのファンの方が参加してくださっていて、ファン参加型のイベントとしてはかなり異色と自負しています。
Q:高田さんの中で「28 BLACK(トウェンティエイト ブラック)」の位置づけは、エナジードリンクとしてだけでないようですね?
T:その通りです。エナジィに紐づく事業を繋げていきたいと思っています。例えば、栄養成分表示等をラベルで貼るのですが、余剰スペースを活用して静かなるエナジィに繋がる会社さんのオリジナルエナジィにしてみたり。この製品が繋げてくれる、色々な方々と協業していきたいな、と思っています。
Q:なるほど。食品自体としての楽しみ方については、どうですか?
T:美味しいエナジードリンクとしても特徴があるので、ぜひストレートにご愛飲いただきたいのはもちろんなのですが、カクテルにしてみてもとても美味しいので、是非、お試しいただきたいですね。弊社のウェブサイトやYouTubeにカクテルレシピを沢山載せていますので、参考にしていただければと思います。
Q:購入もウェブで、ですか?
T:弊社ウェブからのご注文の他にAmazonでも扱いがあります。あと、ドン・キホーテさん他の小売店さんでもお買い求めいただけます。
Q:現在のラインナップ(AÇAI、AÇAI ZERO、SOUR MANGO-KIWIの3種類)は今後、増えますか?
T:はい、将来的にはラインナップを増やしていこうと思っています。幅広い楽しみ方を提案したいですね。
Q:高田さんのことですから色々な計画がおありなのでしょうね。単体として、カクテルの割り物として、そしてコミュニケーションのツールとして様々に展開されていくこと、楽しみにしています。今日はありがとうございました。
T:こちらこそ、ありがとうございました。

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創業時のチャレンジング(というか、素人ならではの無鉄砲)な状況を楽しそうに語る高田さん。エネルギーがどんどんと湧き出る秘訣は常に状況を楽しむことができる彼自身のメンタリティなのでしょう。「エナジーは無くてはならないものだから、無限にあり続ける」という高田さん。「28 BLACK(トウェンティエイト ブラック)」の今後の展開を楽しみにしています。           (文責:事務局)